四月六日――――朝~階段~
ピピッ――ピピッ――ピ――目覚まし時計のアラームを止めて目を明けると、いつもの見慣れた天上が在った。……が、電気は付けっ放し。そっか、昨日電気消す気力すら残ってなかったもんな。
寝すぎた為でか、少し痛む体を起こしてリモコンで部屋の電気を消した。首を左右に軽く倒すと、コキコキという音が鳴る。
正直起きているのがだるかったのでもう一度ベッドに横になった。
コンコン。
すると、扉の向こうから控えめなノックの音。また飛鳥さんかと思っていたが、扉の隙間から顔を覗かせたのは、
「圭兎君、朝ですよ」
稟香さんだった。
昨日の事が、頭の中を支配する。忘れたくても忘れられない思い出になりそうだ。……いや、忘れたくは無いけどさ。
あんなに可愛くて色っぽい稟香さんは、初めて見たから。初めて見せてくれた表情だったから。
「圭兎君?」
おっと、返事をするのを忘れてた。
上体をバッと起こし、「今行きます」と言ってベッドから降りた。……が、稟香さんは部屋を出て行く様子は無い。
「圭兎君……昨日の事、本気ですから」
面と向かって、そんな事を言われた。その件についてはあまり触れたくなかったが、そういう訳にも行かないのだろう。
「……俺を振り向かせるんですよね? 頑張って下さい」
俺が言うのもどうかと思ったが、それは置いておいて、稟香さんの頭の上に軽くポンっと手を置いて部屋から出た。稟香さんが後ろから小さな溜め息を吐いていたが、気にしない事にしよう。
階段を下りていると、不意に「圭兎君」と呼び止められた。
「はい?」
振り向こうとしたが、それは不可能だった。
稟香さんが、抱きついて来た。
階段の上で。
「はっ、えっ!?」
当然の様に動揺する俺に、稟香さんは一段上から俺に抱きついて優しく言う。
「本当に、大好きですよ」
不覚にも、顔が赤くなってしまったかもしれない。ただでさえこんな事を言われたのに、それに加えて……俺の背中に押し当てられた女子特有の『アレ』がヤバい。
これは危ないぞ。いろいろな意味で。
後、ここが階段っていうのが危ない。一歩間違えれば落下。
「……ちょ、待って下さい。一旦落ち着い――」
落ち着いて離れましょう、と言おうとしたところで気付く。稟香さんに口で何を言おうと、意味は無いのだ。こうなったら強硬手段しか……。
「り、稟香さん……」
少し無茶だが、後ろを向こうと思って体を反転させた――
――かった。
俺が振り向くと同時に稟香さんが腕を離したので、意表をつかれた俺は踵を階段から踏み外してしまい……そのまま頭から落下。
「け、圭兎君!?」
驚き狂った声が上の方から聞こえた。
くっそぉ、俺がイヤラシイ事を考えたからか! 天罰なのか! ……だが、これだけは言える。
我人生に、一遍の悔い無し!!!