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十二月一日――――朝~登校中~

 季節は巡り、十二月の一日。

 世間では「クリスマス」という単語が飛び交い、男女で行動を共にするカップルらしき人達もちらほらと見えて来た。

 恐るべし……クリスマスパワー。


「圭兎? どうかしたのか?」


 ――目の前で繰り広げられている彼氏彼女の光景に呆然としていると、隣を歩く飛鳥さんが心配そうな目で見て来た。


「あ、いや……」


 現在、俺達は朝の通学路を歩いている途中。もちろん稟香や咲紀さんや千春も一緒だ。

 ただ今日は珍しく、飛鳥さんと肩を並べて通学中。……と言うよりは、いつも隣を歩く咲紀さんを持っていかれた……とでも言うべきか。


「――紀さ――圭兎君――いは――えまし――か?」


「ふぇっ!? な、何で――香ちゃんが――るの!?」


「ど――兎に訊――しょ?」


 ちなみにここからだと断片的にしか聞こえない。何か俺の名前が出て来てる気がするんだけど……気のせいだろうか。



「千春達は何を話して――っきゃぁ!」



 本当、千春達は何を――って、きゃぁ!? 誰!? 今のは誰の悲鳴なんだ!

 ぐるりと周囲を見回すが、悲鳴をあげたと思われる人物は、一人しかいない。……でもまさかなぁ。

 ――内心では「違ってほしい」と思いながら、悲鳴の主と思われる人に声をかけた。


「えっと……今のって……飛鳥さん?」


 いや、まさかな。そんな事がある訳――「ふぇっ……圭兎ぉ……」――……だ、駄目だ……言い逃れが出来ない……。流石に二度も聞けば、悲鳴をあげたのが飛鳥さんという事は分かる。


「ど、どうしたんですか?」


 思い切って顔を覗き込んで見ると――、


「って、え!? 何で泣いてるんですか!?」


 ――飛鳥さんは、左目から涙を流していた。

 いつもはクールで涙なんて滅多に見せない飛鳥さんが。……俺、何かした?


「痛いぃ……」


 え? 痛い?


「目に虫……入ったぁ……」


 む、虫? ……た、確かに宙には数え切れない程の『雪虫』が飛んでいる。この雪虫は初雪の降る少し前に出現したりする事から、冬の訪れを告げる風物詩ともなっている、のだが。

 もしかして、こいつが目に?


「大丈夫ですか?」


 まぁ、虫だろうが何だろうが、目に物が入ると痛いだろうし、取ってあげたいんだけど。……虫って手で取れるんだろうか?


「圭兎ぉ……取ってぇ……」


 頬をぷくっと膨らませて、左目を震わせている飛鳥さんを見て、不謹慎にも「可愛い」と思ってしまったのは内緒だ。やっぱり飛鳥さんはこういうギャップみたいなところが可愛かったり。

 しかし、取ってとは言われたが……。


「えっと……」


 とりあえず、立ち止まった飛鳥さんに向き直って、目の様子を確認する。


「あぁー……ちょっと動かないで下さいね」


 左手を首の後ろにあてがって、軽く体を引き寄せる。お互いの息がかかるくらいに接近してしまうのはこの際、仕方ない事だろう。

 首を軽く斜めに倒して、上から覗き込む。親指と人差し指の腹で慎重に雪虫の羽を掴み、ゆっくり取り除いた。よし……これで大じょ――




「――ちょ、ちょっと圭君! こんなところで何してるのよ!?」




「へっ?」


 飛鳥さんにとっては前方、俺にとっては後方から、そんな叫び声が聞こえた。慌てて振り返って見ると――、


「ばっばかぁ!」


 咲紀さんが、別高校への分かれ道で耳の先まで真っ赤にして、俺達を睨みつけている。……って何で?


「もう良い! じゃあね千春! また家で会おうね! い、行こう稟香ちゃん!!」


「さ、咲紀さん? 転びますよ?」


「あっうん、ばいばい……?」


 されるがままに引っ張られて行く稟香と、状況をよく理解していない様子の千春。そして何より事態の把握が出来ていない、俺と飛鳥さん。

 ……ど、どうして咲紀さんはあんなに怒ってたんだ?

 足早に稟香を連れて行く咲紀さんの姿に、疑問だけが残った。

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