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七月八日――――夜~歩道・路地裏~

「ねぇ圭君……どこ行くの?」


 時刻は十九時を少し回ったところ。街灯の光だけを頼りにして暗闇に包まれた道を行く。

 今日は咲紀さんの誕生日だったから、本当の今頃は家で誕生日パーティーをしているところだった――のだが、錦乃先輩の所為でこんな事になってしまった。

 ……とは言っても朝から「どこかに行く」とは言っていたのだが。


 それにしても、錦乃先輩が今まで咲紀さんに言い寄って来なかったのが、正直言って意外だったな。

 あの人、誰彼構わず声かけてるみたいだし。


「圭君? 聞いてる?」


「へ? あっごめんなさい」


 手に柔らかな感触が伝わって来て我に返る。手元を見ると、隣を歩く咲紀さんが俺の右手を両手でぎゅっと握っていた。


「もう……それで、どこ行くの?」


「えっと……まぁ……ははは」


 これぞ、笑って誤魔化す戦法。

 俺の返答を聞いた咲紀さんは「はぁ……」と溜め息を吐いているが、きっと夜で寒いからだろう――



「――ねぇ~秀くぅ~ん! まだ遊びたい~!」


「えー? もう暗いからさぁー、また今度遊ぼうよ?」



 ふと、前方に二つの黒い影が見えた。外だというのに大声を上げているその二人。その内の一人は――


 ――錦乃秀。


 名前も呼ばれているし、それにあの声は、錦乃先輩その人だ。

 それに気付いたのか、咲紀さんは足をピタリと止めた。……まさかこんなところで出遭ってしまうとは思っていなかったのだろう。

 ……っていうかあの人、こんな遅くまで女子を連れ回してるのか。いや、俺もだけど。


「け、圭君……」


 ――手に加わる力が強められた。咲紀さんのその小さな手からは想像も出来ない、強い力が。

 徐々に近付いて来るその影が残り五十メートルくらいになった。このまま黙っていれば、あの二人とは接触するだろう。

 そうすれば咲紀さんが放課後の事を思い出して、嫌な気分になってしまう……年に一度の誕生日なのに。


「咲紀さん、こっち――」


 ――そんなのは嫌だ。


 その一心で、繋いだ手に少し力を入れ、路地裏まで引っ張った。

 人気ひとけの無い路地裏で、二人が通り過ぎるのをじっと待つ。


「あれ~? 今ここに誰かいなかった~?」


 心臓がドッと高鳴った。バレたのか? という可能性が頭の中を駆け巡って――、


「んー? 気のせいじゃないかな? ほらー余所見してると転ぶよー」


 ――すぐに安堵の溜め息が出た。良かった……バレてはいなかったようだ。

 足音が完全に聞こえなくなったのを確認して、もう一度深い深い溜め息を吐いた。……だってこんなところを見られたら、俺の世間体とかだけじゃなくて咲紀さんにまで迷惑が掛かるんだから。

 でも、『女たらし』っていうのは本当だったんだな。放課後、咲紀さんに話しかけて夜になったらこれだもんな。




「――圭君……痛いよ」




「へ?」


 ――胸の辺りから聞こえて来た声に、間抜けな声を発してしまった。


「痛い……」


 ゆっくりと視線を下げると――。


「わっ! ご、ごめんなさい!」


 ――どうやら無意識の内に咲紀さんを力一杯に抱き締めてしまっていたようだ。

 離れなくちゃ、と焦る気持ちで頭の中が満たされ、思わず勢いよく離れてしまった。


 ガンッ!


 ……その反動で、背後の石垣に後頭部を強打。


「いってぇ…………!」


「け、圭君っ大丈――痛っ!」


 ゴツンッ!


 ……石垣に頭をぶつけた反動で、前にいた咲紀さんに頭突き。


「ご、ごめんなさい……!」


 額を涙目で押さえる咲紀さんに、謝罪の念を込めて頭を下げた。……今度は頭がぶつからない程度で。


「ふふっ……何か私達、バカップルみたい……」


「へ?」


 だが、咲紀さんから返って来たのはあまりにも予想外で。




「圭君と付き合ったら……毎日こんななのかなぁ……」




 ――困ったように微笑むその笑顔が、「羨ましい」と、小さく呟いた。

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