七月八日――――放課後~家路~
錦乃先輩から逃げるようにして校門の外まで出た俺と咲紀さんは、お互いを顔を見るなり、声を上げて笑った。
「ふふっ……圭君も無茶するんだから……でもありがとう」
「いえ、困ってる姉を置き去りになんて出来ませんよ」
咲紀さんの困っている顔は……久し振りに見た気がする。いつもは困っているとは言っても、半分冗談めかしている風だったから。
それにしても……あの錦乃先輩って何であんなに人気なんだろうな? 確かに顔もスタイルも良いけど、女子には恨まれそうな性格なのに。
錦乃先輩の彼女になった女子同士での嫉妬とかは酷そうだな……。
「それで?」
ふと耽っていると、咲紀さんが悪戯に微笑んでそう訊いて来る。
「え? ……っと……それでって……?」
目を見てそう訊き返すと、咲紀さんは拗ねたように口を尖らせ、頬を赤く染めた。その子供っぽい仕草を見ていると、急に千春の顔を思い出した。
純粋無垢……そんな言葉がよく似合う笑顔を見せてくれる千春。……俺の事を好きだと言ってくれたあの表情は――きっといつまで経っても忘れない。
泣きながら伝えてくれた……あの告白を。
「だからぁ……」
――と、思考を巡らせていると、目の前の咲紀さんに動きが。目を逸らして、何か口篭っているようにも見える。
「……さっき言ってくれたでしょ?」
「えっと……何を?」
さっき言った事って……「咲紀さんに触るな」っていうのをか? ……もしかして、図々しかったとか? ……今度からは少し控えた方が良いのかもな。
「もう……鈍感だなぁ」
はぁ……と溜め息を吐いた咲紀さんが、俺の両腕をガシッと掴んで、自らの体にグッと近付けた。
「っ――――!?」
――――至近距離からの咲紀さんの上目遣いは、頭が混乱するくらいに可愛らしくて……そして綺麗で。
もうその距離が数センチのところで、
「これから私とデートだって言ってくれたじゃない……!」
「ぐっ……」
鳩尾に軽く頭突きされた。攻撃自体に威力は無かったものの、痛いところを突かれた……と言ったところか。
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「ねぇ圭君、どこ行くの?」
とりあえず家の方向に歩き出した俺に、咲紀さんが見るからに上機嫌そうに訊ねた。
その場逃れ……って訳では無かったけど、まさかここまで楽しみにしてくれているとは……妙なプレッシャーが。
「えっと……一回家に帰ってからでも良いですか?」
曖昧に答え、歩幅を咲紀さんに合わせる。やっぱり女子と男子だと歩幅の違いっていうのはあるからな。
「え? あ、うん。もちろん」
「じゃあ家に着いたら一旦夕飯の準備して……用意が出来たら呼びに行きますね」
「う、うん」
俺の提案が意外だったのか……咲紀さんは鳩が豆鉄砲を食らったような顔になって、頷いた。
「じゃあ……帰りましょうか」
そう声をかけると、咲紀さんは自らの手を俺の手に絡めて来た。
「帰ろ?」
――そして、満面の笑みで微笑んだ。




