表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/98

七月三日――――夜~リビング~

〈――――Keito Side――――〉

 稟香からの応援を受け取った俺は、最後に飛鳥さんと話をする為、再び一階へ。

 リビングに通じる扉を開くと、テラスに咲紀さんの姿は無く、代わりに飛鳥さんがソファに座っていた。


「飛鳥さん、ちょっと良いですか?」


 正面のソファに浅く腰かけ、返事を待つ。

 玄一さんが家を出て行ってからの毎日は、いつも飛鳥さんが俺達の事を支えてくれていた。

 俺達を引っ張ってくれていた。……優しくて家族想いで……でもたまに抜けてるところがあって。

 この家で、一番頼りにされていたのは飛鳥さんなんじゃないだろうか。


「何か話があるのか?」


 慈愛に満ちた眼差しでそう促す飛鳥さんを見ていたら、不思議と安堵の溜め息を吐いていた。

 飛鳥さんの周りにはいつも誰かがいた。学校でも家でも――どこにいても誰かがいた。

 俺は三年前、そんな飛鳥さんが羨ましくて……同時に恨めしかった。



「俺……この家に来たばかりの頃、飛鳥さんが嫌いだったんです」



 ――この告白は一生したくなかった。出来る事ならば墓場まで持って行きたかった秘密だ。


「そう……だったのか」


「俺はいつも一人で、飛鳥さんはいつも誰かといて……それが羨ましくて嫌だったんです。

 新しい環境に慣れない俺は立ち止まったままなのに、飛鳥さんや『ここの人達』はずっと前にいて……。

 って……ただの嫉妬なんですけどね……」


 飛鳥さんは黙って俺の話を聞いてくれていた。だからこそこんな事が言える。

 自分の嫉妬心を露わに出来る。


「でも、分かったんです――」


 あの日……トラックの運転手が暴走をしたあの時、話しかけて来たのは飛鳥さんだった。俺じゃなかった。


「――飛鳥さんがいつも誰かと一緒にいるのは、飛鳥さんの『誰にでも積極的に話そうとする気持ち』がそうさせていたんだなって」


 誰しも、自分から一歩を踏み出さなければ変わらないし、変われない。周りが来てくれるのを待つだけは、駄目なんだ。

 飛鳥さんはそれに気付いた。だから俺に話しかけてくれたんじゃないか?


「圭兎……」


「飛鳥さんは……それを俺に教えてくれた」


 だから俺は変われた。あの日の飛鳥さんが手を差し伸べてくれた……救ってくれたから。


「俺、ずっと飛鳥さんに憧れてました。何でも出来て強くて優しくて、負けず嫌いで強情なところもあって……それでいてたまに見せる一面が凄く可愛くて。

 ……羨ましかった……飛鳥さんは人気者だから、俺なんかが近付いて良いかも分からなかった」


 辛かった――。

 ――こんなにも眩しい人を近くで見ているのが。

 ――一緒に生活をする上で、飛鳥さんの良い一面を知って行くのが。

 ――自分の弱い一面ばかり、映し出されてしまうのが。


「……アタシは何でもは出来ないよ」


「俺には出来なかった事が……飛鳥さんには何でも出来たんですよ……」


 勉強も運動も、気配りも――人付き合いも。


「アタシは今の圭兎の方が羨ましい。アタシには出来ない事がちゃんと出来てるからな」


「俺こそ何も――」


 何も出来ません、と言おうとした俺の言葉を「違うよ」と飛鳥さんが遮った。

 ポリポリと頬を掻いて頬を染めている……そんな珍しい仕草が凄く、印象に残った。


「アタシは――」


 飛鳥さんは一瞬目を逸らして、恥ずかしそうにはにかみ、一度照れ隠しの咳払いをして。




「――恋愛はどうも苦手で」




 そう言ってまた、恥ずかしそうに笑みを浮かべた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ