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七月三日――――夜~稟香の部屋~

 千春の部屋から出た俺が次に向かったのは、すぐ隣に在る――稟香の部屋。そういえば前にも入った事あったな……あの時は死ぬかと思った。


 コンコン。


 少しだけ控えめにノックした。……咲紀さんと三年前の話をしていたから、あの時の感覚が在るんだと思う。三年前の稟香って凄く怖かったから。

 いつも一人だっていうのは俺と変わらなかったけど、向こうは「話し掛けるなオーラ」をガンガン出してたし。

 ――やっぱり、一人で不安だったんだろうな。


「……どうぞ」


 中から入室許可が下りたのを確認し、扉を開く。――前に入った時と何ら変わりは無かった。


「圭兎君……ごめんなさい」


「いや……俺の方こそごめん」


 お互いに、何を誤っているのかは察しが付いた。

 稟香はこの状況を作り出した事を。

 俺はいつまでも答えを出さなかった事を。


「どうして圭兎君が謝るの……? 私が……私が余計な事をしなければ全部丸くっ!」


「それは違う。……俺が稟香に好きって言われてた、あの時点でもう答えておくべきだったんだよ……」


 春の時点で返事をしていれば、こんな事にはならなかった。これは三ヶ月もずるずると引きずっていた俺が悪いんだ。

 稟香と『付き合う』か『付き合わない』か、いくら真剣に考えなければいけない事だったとしても、三ヶ月もあれば答えは出たんだから。


「稟香、俺……いろいろ考えた結果、自分の中で答えが出たんだ」


 咲紀さんにもユーカリの木の下で伝えた事。笑われたけど、それでもその笑顔は晴れていた気がした。

 それを、俺は稟香にも伝えた。



〈――――Rinka Side――――〉

 圭兎君は私の目をしっかりと捉えて、自分の気持ちを全て吐き出した。真剣で真っ直ぐで……いつからか私は、そんな圭兎君に惹かれていた。

 大好きな圭兎君がした提案は、子供みたいに純粋で……悪く言えば無謀な挑戦とも言えるくらいだった。


「くすっ……」


 こんな提案……笑うしかない。


「ふふふっ……」


「り、稟香まで……」


 圭兎君は私が必死に笑いを堪える姿を見て「やっぱりか」みたいな顔で困っていた。その表情がちょっとだけいつもと違い、新鮮で。


「だって……ふふっ」


 幼稚園児が考えてももっとまともな答えが出そうだけど……これが圭兎君だから。――――圭兎君だから「そうしてくれる」と勝手に思えて来る。

 無理。無謀。無茶。そんな言葉を投げつけられても「大丈夫」と言える何かが、圭兎君には在る。


「圭兎君……」


「………………」


 私が名前を呼んでも、圭兎君は拗ねたようにしてこちらを見なかった。……きっと、咲紀さん辺りにも笑われたのね。圭兎君って昔から咲紀さんに馬鹿にされたりした時、泣きそうになってたから。




「――頑張ってね」




 それなら私は、圭兎君を少しでも勇気付けてあげよう。圭兎君の夢が、思いが――この家にいる全員に届きますように。

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