七月三日――――~テラス・千春の部屋~
「は、初恋? 私が……圭君の?」
俺の告白を聞いた咲紀さんは、これでもかというくらいに驚いた表情で俺を見上げた。
「はい。三年前……こうしていつも俺の傍にいてくれる咲紀さんが……好きでした」
今となっては良い思い出だ。……あの時は付き合うっていう行為がよく分からなかったから、自分の気持ちを直隠しにしていたけど。
もしも――――あの時の俺が高校生だったら、もしかしたら告白していたかもしれない……と、今なら言える。
中学生だったから……子供だったからかな。あまり自分の気持ちを表現するっていうのが得意じゃない自分がいたんだ。
「嬉しいのに……何で泣い、ちゃうんだろ……っ……ぇぐっ……」
咲紀さんは、次第に声を大きくして泣いた。その姿はあえて見ずに、ずっと空を見上げていた。咲紀さんが今泣いているのは悲しいからじゃない……これなら稟香だって納得するはずだから。
「圭君……っ……」
「はい」
「もし私が……っあの時……圭君に好きってっ……」
「お、落ち着いて下さい……大丈夫ですから……最後までちゃんと、聞いてますから」
何とか言葉を紡ごうとする咲紀さんを安心させたくて――本当の声が聞きたくて。
今まではあまりこういう事に向き合って来なかった自分に――逃げていた自分に「逃げるな」と言っておきたかった。
もう問題を先送りにするのは止めよう。これからはちゃんと目の前に降りかかって来る問題を直視しよう。
「もしも……」
深呼吸を繰り返して息を整えていた咲紀さんが落ち着きを取り戻したのは、数分経った頃だった。
「もしもあの時の私が圭君に告白してたら……返事はどうだったと思う?」
あの時の咲紀さんが……か。
「『あの時の俺』なら昔の咲紀さんでも、今の咲紀さんでも……付き合ってたと思います」
まぁ……三年前は好きだったし。今だって――、
「そっかぁ……言えば良かったなぁ。何してたんだろ……私は」
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あれから、咲紀さんが「一人になりたい」と言ったので、次の相手と話をするべくして、二階の角に在る一室の前で立ち止まっている。
……正直言って、会うのは気まずいから。
コンコンッ。
「………………」
部屋の中からは何も聞こえない。それを暗黙の了解と良いように解釈して「入りますよ」と一言断ってから扉を開いた。
「何の用よ……」
中の様子を見ると、部屋の窓から外を見たままで千春は俺にそう訊いた。
「……ちょっと話がしたくて」
千春は「私は話したくない」と言ったが、構わずに続ける事にした。多分、ここで言っておかなきゃ、俺は逃げると思うから。
「俺……千春に好きって言ってもらえて嬉しかったです……。好意を寄せられるのは悪い事じゃないんだなって。
それで、前に千春は俺からの応援が一番心に響くし嬉しいって言ってくれたのを思い出して……あの時はその意味が全然分からなかったんですけど。
――でも、今になってようやく分かった気がしました」
それはきっと誰もが思っている事なんじゃないかと思う。
これをされたらもっと頑張れる! そう思える言葉。
「俺も千春に応援されたら……心に残るし嬉しいんだなって」
千春は黙ったまま、窓にゴツンとおでこをぶつけた。
「……っ……う゛ん」
きっと――好きな人からの応援は、頑張ろう! と心の底から思える一番の魔法だから。




