七月三日――――昼休み~ユーカリの木の下~
〈――――Saki Side――――〉
「俺も好きですよ」
圭君は、確かにそう言ってくれた。私の告白に対して、そう言ってくれた。……けど私には……今の私にはその言葉すら痛みに変わる。
いっその事、「好きじゃない」と言ってほしかった。
「咲紀さん……俺、正直言って自分の気持ちが分からないんです――」
そう言って圭君は、自分の今の複雑な気持ちを私に教えてくれた。自分がどうしたいのか……どうすれば良いのかを。
私と付き合いたいかどうかを、教えてくれた。
「ふふっ……圭君って……意外と子供なんだね?」
それを聞いた私は、思わず笑ってしまった。声を上げて、笑った。
こんなに大声で笑ったのは何年振りだろ?
「ちょ……! 笑わないで下さいよ……」
圭君は照れくさそうに手で口元を覆って、目を伏せた。その恥ずかしがっている姿が私の笑いを更に誘い、もう止まらなくなった。
自分の気持ちを伝えられて良かった。きっと私って、好きな人が本当に好きな人と幸せになるよりも……自分の嘘偽りない気持ちを伝えられないで終わる方が、嫌いなんだ。
正直言って、圭君の『自分の気持ち』は実現なんて出来ないような、それこそ幼稚園児が考えるくらいに単純なものだった。
それはきっと私だけじゃなくて……飛鳥や千春や稟香ちゃんも思うはず。そしたらきっと、私みたいに笑うんだと思う。
「ふふっ……」
堪え切れない笑いが、涙となって溢れて来た。
でもその涙を流す私の心は痛くて……それなのに笑顔で。
「あはははっ……!」
「咲紀さんっ笑いすぎですって!」
嬉しいんだけど、辛い。
今の私の心は、まさにそれだった。圭君の気持ちが聞けて――しかもそれが私にとっては凄く嬉しいもので。何だか一人で抱え込んでいた私がバカみたい。
「圭君」
「はい?」
これからは自分に素直になるのも……良いよね?
「大好きっ」
だから――圭君の事が大好きな私に、素直になってみようと思う。
〈――――Keito Side――――〉
「大好きっ」
そう言って咲紀さんは、腰にぎゅっと抱きついて来た。
「ちょ、ちょっと!」
今そんな事をされてはいろいろと困る! ここは裏庭だ。つまりは、場所によっては教室の窓から外を覗けばこの光景を見られてしまう。確か裏庭が見える教室は――一階に陣取る二年。
二年という事は――!
「圭兎くぅ~ん」
――や、やっぱり。
「こ、こんにちは、先輩」
顔だけを声のした方へ向けて他人の風を装ってみる。……が、そこにいたのはよく知った顔だった。
窓枠の上で頬杖をつき、ジト目をこちらに向けるのは、稟香さんその人だった。
「御機嫌よう後輩」
だが、その冷めた目線はいつものとは違い、怖いくらいだった。
「ど、どうしたんですか先輩? 目が笑ってませんよ?」
何とか笑顔を作って会話を続けるも、この状況は最悪だった。
自分の義妹にあたる子が、泣き笑いの表情で抱きついている。
「圭兎君――」
「い、いや! これはちがっ――」
何とか反論しようとする俺の声を遮って、稟香さんは口を開いた。ゆっくりと開かれたその口は、しっかりと心に響く言葉を紡いだ。
「――女の子を悲しませたら、許しませんから」
と。




