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七月三日――――昼休み~裏庭~

〈――――Saki Side――――〉

 四時間目も終わり、教室内が昼食の話題で持ち切りになった教室の片隅で、私は机に突っ伏している。ギリギリその高さから見えるグラウンドを眺めていると、圭君と同じクラスの……折弐茂(おれにも)君がいた。

 そういえば……四月の中旬くらいに、折弐茂君にユーカリの木の下で告白されたんだっけ。


「はぁ……」


 一息吐いて、立ち上がった。


 ――行ってみよう。


 いないだろう圭君に、いてほしかったから。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ザクッザクッ……と雨降りの後の固まった地面の上を歩く。空を見上げると、今にも雨が降りそうな模様だった。

 そんな空を見ていたら――、


「あ……はは」


 ――涙がて来た。拭っても拭っても溢れ出る涙に――自分に――無性に腹が立った。きっと稟香ちゃんは私に「遠慮なんてしないで良いですよ」と言ってくれると思う。……けど。


「圭君は……」


 きっと……圭君は稟香ちゃんが――、



「――咲紀さん?」



 背後から聞こえた声に、体が過剰に反応した。優しくて安心する声が――けど、今一番聞きたくなかった声が――心に届いた。


「圭……君……」


 振り向かずにそう答えた。……あまり、顔を合わせたくなかったから……泣いている姿を見られたくなかったから。


「何でここに?」


 今の私は性格が悪いって、分かる。けど……どうせ手の届かない恋なんだから早く断ち切っても……良いよね。


「何でって……朝――」


「――私は来なくて良いって言った」


 圭君に冷たくあたるのは、凄く心が痛んだ。痛みが涙となって体の外に流れて行く。止め処なく溢れるそれは、もう私じゃなかった。


 ――きっと半分は私。


 圭君が本当に好きな人と付き合ったら傷付くと分かっているけど突き放す。……それは私。

 圭君には本当に好きな人と付き合ってほしいから突き放す。……それは私じゃない。

 圭君に――私の大好きな人に幸せになってほしいから突き放す。……それは私?


「咲紀さん……一つ良いですか?」


 ずっと背を向けたままの私に、圭君が近付いて来る。私が「良い、悪い」を言う前に、話を進めようとしているのだろう。


「咲紀さんは……何がしたいんですか」


 背後からザクッザクッという音が聞こえて来て、今すぐにここを離れたいけど……足が動かない。せめてもの救いの手を求めて、怖くて震える声で「来ないで」と呟いた。


「何でそんなに自分を犠牲にしてるんですかっ」


 左肩を掴まれて、体ごと無理矢理振り向かされた。


「何を守っ――――っ!? ……何で泣いて…………」


 私の顔を見た途端、圭君は凄く困ったような表情になった。


「だって……だって……!」


 もう見られてしまったら、涙腺は防波堤の用を成さなくなった。溢れる涙を拭こうという気も起きなかった。


「もしかして俺……何かしました……か?」


 不安そうな眼差しで見つめて来る圭君の優しさに、もう自分を止める事が出来なくなった。

 こんなに苦しいのなら――、




 ――振られてしまえば良いんだ。




 そうすれば、納得が行く。言えば全てが楽になる。悔いは残らず……圭君は本当に好きな人と結ばれる事になる。私の邪魔が無くなって一途な恋愛が出来るだろうから。


「圭っ……君――」


 言えば終わるんだ。動け――私の口。勇気を出せば……みんなが幸せになるんだから。



(言いたくないよぉ……)



「――好きです」



〈――――Keito Side――――〉

 言い終わって、咲紀さんは大泣きした。声を上げて、赤ん坊のように泣きじゃくった。――それはまるで俺の返事を聞きたくないと言っているようで。


「咲紀さん……」


 自分の腕を目に押し付け、空を見上げて大泣きしている咲紀さんに……何と言えば良いのか分からなかった。自分の気持ちを伝えたら、もっと泣くんじゃないかって。それがどちらの意味だとしても。


「ぇぐっ……返事っ……して下さ、い……」


 でも咲紀さんは、それでも俺の返事を求めている。だから伝えなければいけないんだ――、




「俺も好きですよ」




 ――本心を。

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