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六月二十九日――――昼過ぎ~エレベーター~

 咲紀さんを何とかして落ち着ける為に、背中をさすったり頭を撫でたりと、試行錯誤しているが、やはり『恐怖症』というものはそう簡単には治まる訳もなく。

 でも咲紀さんは閉所恐怖症患者の中ではまだどうしようもないくらいに怖がったり……という事が無い。

ただ、今この状況で最も最悪なのが――


「――寒くないですか?」


 今日は元々、天気が悪い上に気温も低い。しかもこの時期だ……暖房なんて入っているはずもない。


「う、うん……ちょっとね」


 さっきから俺にくっついている咲紀さんでさえこのリアクションだ。今のここの室温は相当低いだろう。


「うぅ……圭君ん……」


 何としてでもここを出なければいけない。

 このままだと、いつ体がたなくなってもおかしくないし……何より――、


「大丈夫ですよ。俺がついてますから」


 ――咲紀さんが苦しんでいるところを、これ以上見たくない。


 とは言ったものの……状況の打開策がある訳でもないし……。

 何か、抜け穴のような――ん? 抜け穴?


「そうか! 天井だ!」


「きゃぁっ! ……い、いきなり大声出さないでぇ……!」


「あっ……ごめんなさい」


 焦るな俺……これじゃあ本末転倒だ……優先するのは咲紀さんだぞ。


「うん……それで、天井って……?」


「ほら――」


 エレベーターの中には、非常時の為のハッチのような物が天井に設置されている。

 天井から箱の外に出る為の、抜け穴が。そこなら密室ではなくなるので、まだマシな状況に変わるだろう。


 俺の説明を聞いた咲紀さんは「そっか!」と、一筋の希望が見えたようにぎゅっと、抱きつく力を強めて来た。


「という事で咲紀さん……一旦離れられますか……?」


 そう、この脱出方法を成功させるには、一度離れなければいけない。

 思いつきで言ったとはいえ……中々難しい事だ。


「……やだ」


 ですよね……。ここは何とか説得してみるか? いや、でも無理矢理っていうのは駄目だよな。

 それならせめて体勢だけは直させてほしい。今は正面から咲紀さんが抱きついていて、そのまま座っている。

 俺は辛くないが、咲紀さんが心配だ。こんな体勢じゃあ腰を悪くしそうだし。


「じゃあ、一回立ちましょう? そこからどうするか考えて――」


 そう言って膝を立てた――が、咲紀さんの腕の力が一層強まってしまった。


「――やだ」


「やだって、このままじゃ――」


 何とか宥めようと口を開いたが、またもや遮られてしまった。




「――このままがいい……圭君と……離れたくない……」




 …………………………へ?


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