六月二十九日――――昼前
飛鳥さんと千春と出かけた次の日の日曜日。空が曇って怪しい中、再び三人で出かけ、今度は咲紀さんの誕生日プレゼントを買いに行った。
朝早くに家を出た事もあってか、昼食を食べるような時間帯ではなかった為、今日はそのまま帰宅した。歩き疲れを癒そうとソファに身を投げて五分もしない内に、事は起こった。
――ドタドタドタッ!
慌てて二階から降りて来る足音が聞こえ、階段の方を見やる。
ガチャッ! バタンッ!!
「圭君!! 行くよ! 早くっ!」
咲紀さんが、血相を変えて俺をソファから引きずり下ろした。
「えっちょっと!?」
そのまま落下する前に何とか体勢を立て直し、咲紀さんの腕を掴む。
「ど、どこに行くって――えぇ!?」
――だが、そんな事はお構い無しに驚異的な力で引きずられる。
靴下の裏側が摩擦で熱くなるのを感じながらも、何とか踏み止まる。
「ストップストップ! 咲紀さん止まって!」
「うぅぅ! ……はぁーやぁーくぅー!」
何でこんな駄々っ子に!? 誰だ変な薬飲ませたヤツは!
「早く!!!」
そして結局俺は力負けし、外まで引っ張られた。……でも、外に出ても咲紀さんの勢いは止まらないまま。もう半分諦めかけているのも確かだ。
「咲紀さーん、どこ行くんですか? 財布は要らないんですか?」
――ピタッと、咲紀さんの足が止まった。
「財布………………忘れた」
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ガタガタとバスに揺られ、足場の悪い道を進む。隣に座る咲紀さんは、目的地を一向に話そうとしないが……大体分かった。
前から行きたい行きたいと言われていた――――摩周湖だろう。
でも………………どうして今日なんだ? 空は曇っているし、ただでさえ霧の多い場所だ。何も見えないんじゃないだろうか……。
様々な疑問が頭の中を行き交う。……そもそも、どうして摩周湖なんだろうか。
「あのー……咲紀さん?」
「なぁに?」
「今日中に……帰れますよね?」
「………………明日」
「明日って……学校は……」
まさかこの人、無計画で来た……のか?
「休むもん」
遊びに来ているので欠席します、なんて言って怒らない先生を紹介してほしい。
「あの……はぁ――」
まぁ、たまには良いか。こういうのも。
咲紀さんが来たいって言うんだから、付き合うのもアリなんじゃないか?
「楽しみですね」
だから、そうとだけ言っておいた。――彼女が笑顔になるのを見越して。




