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六月二十九日――――昼前

 飛鳥さんと千春と出かけた次の日の日曜日。空が曇って怪しい中、再び三人で出かけ、今度は咲紀さんの誕生日プレゼントを買いに行った。

 朝早くに家を出た事もあってか、昼食を食べるような時間帯ではなかった為、今日はそのまま帰宅した。歩き疲れを癒そうとソファに身を投げて五分もしない内に、事は起こった。


 ――ドタドタドタッ!


 慌てて二階から降りて来る足音が聞こえ、階段の方を見やる。


 ガチャッ! バタンッ!!


「圭君!! 行くよ! 早くっ!」


 咲紀さんが、血相を変えて俺をソファから引きずり下ろした。


「えっちょっと!?」


 そのまま落下する前に何とか体勢を立て直し、咲紀さんの腕を掴む。


「ど、どこに行くって――えぇ!?」


 ――だが、そんな事はお構い無しに驚異的な力で引きずられる。

 靴下の裏側が摩擦で熱くなるのを感じながらも、何とか踏み止まる。


「ストップストップ! 咲紀さん止まって!」


「うぅぅ! ……はぁーやぁーくぅー!」


 何でこんな駄々っ子に!? 誰だ変な薬飲ませたヤツは!


「早く!!!」


 そして結局俺は力負けし、外まで引っ張られた。……でも、外に出ても咲紀さんの勢いは止まらないまま。もう半分諦めかけているのも確かだ。


「咲紀さーん、どこ行くんですか? 財布は要らないんですか?」


 ――ピタッと、咲紀さんの足が止まった。


「財布………………忘れた」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ガタガタとバスに揺られ、足場の悪い道を進む。隣に座る咲紀さんは、目的地を一向に話そうとしないが……大体分かった。

 前から行きたい行きたいと言われていた――――摩周湖だろう。

 でも………………どうして今日なんだ? 空は曇っているし、ただでさえ霧の多い場所だ。何も見えないんじゃないだろうか……。

 様々な疑問が頭の中を行き交う。……そもそも、どうして摩周湖なんだろうか。


「あのー……咲紀さん?」


「なぁに?」


「今日中に……帰れますよね?」


「………………明日」


「明日って……学校は……」


 まさかこの人、無計画で来た……のか?


「休むもん」


 遊びに来ているので欠席します、なんて言って怒らない先生を紹介してほしい。


「あの……はぁ――」


 まぁ、たまには良いか。こういうのも。

 咲紀さんが来たいって言うんだから、付き合うのもアリなんじゃないか?



「楽しみですね」



 だから、そうとだけ言っておいた。――彼女が笑顔になるのを見越して。


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