六月二十八日――――昼食
少しばかりボーッとしている頭を振って、気持ちを落ち着かせる。
「ほら圭兎、早く戻らないと千春を待たせるだろう」
……それをあなたが言いますか。待ち合わせとは真逆に位置するここまで引っ張って来たのに。
いつまでも歩き出さない俺を見かねて、飛鳥さんは強引に手を引っ張って来た。
「あっちょっと……」
飛鳥さんもまた、約束の時間に遅れるような事は絶対に嫌がる人だ。橋﨑家の長女として、【人との約束は絶対に守るように】と、玄一さんに言われて育ったのだろう。
そう考えると……良い親だったのかもなぁ。
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「これからどうします?」
時間内に待ち合わせ場所に辿り着いた俺と飛鳥さんは千春と合流し、これからの日程を立てる事にした。もう目的は果たしたし……帰っても良いんだけどなぁ……なんて。
「まだ昼前だしな……」
「何か食べて行こうよ」
最近よく思う。千春の胃袋はどうなっているんだ、と。さっきもパフェ食べてたし……朝ご飯を食べていない訳でもあるまいし……。
やっぱり女子の胃袋っていうのは別次元が存在するのでは、と思ってしまう。よく「甘い物は別腹」とか言っているのと同じで。
「何食べるー?」
「圭兎は食べたい物、あるか?」
飛鳥さんに促され、少々思案する。ここでガッツリした物を千春に食べさせる訳にはいかないだろう。いくら四次元胃袋でも、壊してからじゃあ遅い。何かあっさりとした物は無いか……。
辺りをぐるりと見回し、参考になるものを探す。と――、
「アレにしましょう!」
俺が指差したのは――、
「「――サラダ喫茶ぁ?」」
……凄く、不服そうな結果に。
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シャリシャリシャリシャリ……。
サラダ喫茶……どんな店なのか気になって入ってみたが、普通の喫茶店だった。違うのはメニューの中身くらいなもので、そのほとんどがサラダ。
「なぁ圭兎……」
飛鳥さんがキャベツをシャリシャリ食べながら口を開く。
「な、何でしょう?」
俺は頼んだコーヒーを一口含んで応える。
「何だこの店は」
直球だった。随分と直球な質問だ。……その問いに俺は「サラダ喫茶です」としか答えられない。
「ねぇアンタ」
「な、何でしょう?」
次は千春からの疑問みたいだ。次は何を言われるんだろう。
「何でここ選んだの?」
そんな事を言われるとは……俺はそれについて、「美味しそうだったからです」と答える。
いや、だって美味しそうなのは事実だろう?サラダ喫茶だぞサラダ喫茶。ヘルシーで良いじゃないか。それに店名にだって惹かれる部分はあるし。
「「ねぇ」」
おっと、今度は二人からの質問のようだ。一体何を訊かれるんだろう? 一応俺としては候補がいくつか挙がっているが……。
「「何で誰も居ない?」」
それは……俺に訊かないで欲しかったなぁ。




