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六月二十八日――――朝~歩道~

 時は流れて六月のある日の事。


「圭兎、ちょっと良い?」


「少し良いか?」


 土曜日という何も無い日を無駄に過ごしそうになっていた俺に、姉である千春と飛鳥さんが声をかけて来た。


「どうかしましたか?」


 リビングのソファの上でくつろいでいた俺は、素早く姿勢を正して二人に向き直る。この二人が一緒に居る事は珍しい事じゃないけど、こうして俺に話しかけて来るのは初めてかもしれない。


「いやな、実は――」


「――付き合ってほしいとこがあんの」


 どうして二人で台詞を分けるんだろうか、という疑問はさて置き。


「付き合ってほしい所って……分かりました」


 まぁ、どうせ暇なんだから気分転換ってのも良いだろう。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ギラッと光る太陽を背に、三人で歩道を歩く。

 飛鳥さんの私服は意外な事に、ワンピースが多い。普段のイメージからだとボーイッシュに決めてきそうだが、凄く女の子女の子している。

 そして、千春はこれまた普段の仕草からは想像出来ない、大人っぽい格好。もっと……何だろう……幼稚園児が着ているみたいな服ばかりかと思っていた当初は驚かされたものだ。


「それで……どこ行くんですか?」


 連れ出された俺の格好は、普通。少なくとも、隣を歩くこの二人には到底敵わない。


「うむ……実はな、もうすぐ――」


「――稟香の誕生日でしょ」


 だから、どうして台詞を二つに分けるんだろうか。


「そうですね」


「だから、プレゼントを選ぶんだ」


「それでついて来てもらったのよ」


 稟香の誕生日。――――以前、玄一さんが出て行くと初めに言い出した時の稟香の態度に腹を立てた二人だったが、もうすっかりわだかまりは無くなったみたいだ。……って言っても、あの時のは誤解だったんだしな。

 俺はもうプレゼントを決めてしまったから、後は買いに行くだけなんだけどな。


「圭兎は何か用意したのか?」


 飛鳥さんが顔を覗き込んで訊いて来る。……この人はこういう仕草が素で可愛いから困るんだよな。


「俺は……内緒で」


 言おうかどうか迷ったが……やめた。この二人に限って絶対に無いとは思うが、もしも外部に漏れたら稟香に伝わってしまうかもしれないし。


「それにしても……稟香と咲紀の誕生日近くね?」


 千春が、頭の後ろで腕を組んで呟く。こいつはこいつでこういう動作が似合いすぎてるから困る。


「四日違い……ですもんね」


 たったの四日でも、橋﨑家ではちゃんとそれぞれの日にお祝いをする。だから朝、俺を誘った時も「稟香の誕生日プレゼントを買う」と言っていた。つまり、稟香と咲紀さんの誕生日プレゼントを買うのは別、だと。

 まぁ……そういう考え方は嫌いじゃないし、むしろ好きな方だ。年に一度の誕生日、それぞれを盛大に祝おうではないか。


「だから、咲紀の誕生日プレゼントは明日買いに行くぞ」


 あ、明日……ですか。

 だがまぁ、たまには良いか。


「了解です」


「それでは、急ごう」


 と言って飛鳥さんは、俺の手をぎゅっと握った。


「へ?」


 突然の事に目を白黒させる俺と、その隣で「むっ……」と唸っている千春。


「行くぞ? 圭兎」


 そのまま引っ張られるようにして歩く。すると――、


 ――ぎゅうっ。


 千春が、俺の空いている方の腕に抱きついて来た。


「へ? へ?」


 何が起きているのか分からず、飛鳥さんと千春の顔を交互に見やる。


「ちょ、ちょっと二人共!?」


 ずるずると引っ張られて、さらに歩く。

 自由な動きを取れないこの態勢で足をもつれさせない事だけに全神経を集中させる。

 そんな俺を置いて、二人は睨み合う。



「「良い度胸じゃない(か)」」



 な、何でこうなった……。

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