四月五日――――入学式
高校の入学式ともなれば、流石に校長からの挨拶が短いと思っていたが、なかなかそうも行かなかった。
開始から十分は確実に経っているのだろうが、まだ終わる気配は無い。聞いている生徒はもちろんの事、教師でさえも溜め息を吐き始めてしまった。
「えー、以上です」
話し始めて、何だかんだで十五分は経っただろう。教頭も司会進行を忘れてあたふたしてしまっている。
「で、では…次に生徒会長からの挨拶です。橋﨑稟香さん、お願いします」
「はい」
来た来た、入学式の大目玉、最早メインとも呼べるだろうな。生徒会長の――つまり、稟香さんがステージ上に立って挨拶をする。
当初は三年生がまだいるのに二年生に生徒会長が務まるのかと職員室内で騒がれたが、稟香さんの成績やら学校生活やらの優等生っぷりを見ると、反対の声はそれ以上は無かったらしい。
そういう訳で、心して聞いておかないと…後から何か言われそうだし。
稟香さんは華麗に一礼をしてから、マイクに近付いた。返す必要は無いのに、あまりの美しさに礼をしてしまう生徒もちらほらといた。
「皆さん、ようこそ天川高等学校へ。これから三年間、皆さんはこの学校でこの学校の規則に基づいて生活して行く事になります。
私達在校生も、後輩が出来る事を嬉々としています。部活動、委員会等でお互いの友好関係を築いて行きましょう。
……最後に、あまり高校を舐めないで下さいね?」
本当に最後に小悪魔っぽく微笑んで、稟香さんは挨拶を終わらせた。
校長の話が長すぎたから短い挨拶は嬉しいけど、それ言っちゃって良いんですか!? 絶対、今日から頑張ろうって思ってる人だって少なくは無いと思いますよ!?
そんな(心の)声を余所に、稟香さんは満足そうな様子で終わりの一礼をして、ステージから降りようとした。
――ここで何も無かったら、完璧だったのに。
「きゃっ」
稟香さんはステージから降りる時に、あろう事か、躓いて転んでしまった。
別に、転んだ事が問題という訳では無い。じゃあ何が問題かって?それは――
――父親。
「稟香様あああああああ! 大丈夫ですかーーーーー?!」
俺と、恐らく稟香さんと咲紀さんが落胆している際に、そんな声が体育館に響き渡る。
先程教室で最初に俺に絡んで来る、飯門だ。俺としては何と余計な事を…と恨みたくなったが、稟香さんはそれに救われたかの様な笑顔を浮かべて、
「大丈夫です。ありがとうございます」
と言って静かに自席へと戻って行った。