五月十日――――帰宅
「大体なぁ咲紀。お前は姉に譲ってあげようとか、そういう気持ちが足りないんだっ」
「……! 何と言われても、圭君だけは譲らない!」
俺を挟んでの攻防は休まる気配が無い。……まさかこの中に割って入って「喧嘩はやめましょう」なんて言っても「お前のせいだ」ってなるだろうし。結局何もしないのが得策って訳だ。……動かざるごと山の如しーみたいなヤツ。
「圭兎はどうなんだっ!」
「圭君はどうなのっ!」
あぁ……無理だった……動かざるごと山の如し。
「どうって言われても……あっほら、もう家着きますよ」
家がこの場所で助かったぁ……。心からそう思った。
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「ただいま帰りましたー」
「「……ふんっ」」
俺がはぐらかしたせいでお二人共、絶賛拗ね中。
「おかえりなさい圭兎君」
「おかえりー」
すぐに稟香さんと千春がリビングから出迎えに来てくれた。そうそう、俺はこういう暖かいものを求めていたんだ……! あんな冷え切った雰囲気は嫌いなんだ!
大体、家族ってのはこうして暖かいものでいるべきだと――
「「……(ピキッ)」」
――穏やかだった稟香さんと千春のこめかみに、青い筋の様なものが浮かび上がる。
え? 何これ? ………………………………って!!! 手、繋いだまんまじゃねぇか!
慌てて握っていた手を離そうと――したが。
「だめだよ圭君っさっきの質問、答えて!」
「そうだぞ圭兎。私達はまだ納得していない」
逆にぎゅっと握り返されてしまい、手が離せなくなった。
待て待て待て待て……!
「圭兎君、ちょっと大事なお話があるのですが……」
「あたしも大っ事な用事が今出来たんだけどぉ……」
表情だけは爽やかな笑顔で――血管は浮き上がっている――近寄って来る稟香さんと千春。
「いやいやいやいや! ちょっと待って下さい! 俺は別に何も……! こ、この手だって何と言うか……そう! その場の雰囲気みたいなもんで――」
「へぇ……圭兎君はその場の雰囲気だけで手を繋いじゃう様な最低最悪タラシ男だったのですか」
「あんた……一度オシオキしなくちゃ理解出来ないんだぁ……!」
「待って待って待って待って! 待って下さい!」
ちょっと待て……! コレはどんな修羅場だっ!?
さらにジリジリと詰め寄って来る二人はもう、鬼の形相だった。
「圭君っ! 答えて!」
「圭兎、男ならさっさと決めろっ」
「圭兎君、じっくりお話しましょう?」
「圭兎ぉ~ちょ~っとこっち来てくんない?」
修羅場は修羅場を呼ぶ。……この家の家訓になんねぇかな……もう。
うんざりする俺を前に、姉達四人の声がピッタリと重なる。
「圭君!」「圭兎!」「圭兎君!」「圭兎っ!」
もう本当に――勘弁してくれ……。




