五月九日――――昼
結局俺達は、パフェを朝食として食べた後、デパートに来ていた。千春がそうしたいと言ったからだ。本は買ったからもう用は無いはずだけど……何か買う物を思い出しでもしたのだろうか。
「ねね、ゲームしたい」
不意にこうして、千春が思い出した様に言う言葉に付き合っている。……ってゲームって、あのゲーセンとかに在るゲームの事か?
「……可愛い」
ゲームコーナーへと足を踏み入れた途端、千春の足が止まる。彼女の視線の先に在るのは、UFOキャッチャーだった。……これ、結構得意なんだよな俺。
そして見つめているのは掌サイズのフクロウのぬいぐるみだった。それが何匹もゴロゴロと転がされている。
「へぇ……こんなん在るんだ」
何となく釣られて見てみる。確かに……まぁ、可愛い。普段キリッとして賢いフクロウがこうしてデフォルメされているとそれはどうしても可愛く見えてしまう。
チャリンッ。
千春が一寸の迷いも無く、百円玉を投入する。横から見ていると……狙いはシンプルにねずみ色のフクロウを狙っている様だ。
「むぅ……」
慎重に慎重にクレーンを動かす千春。う~ん……。
「えいっ」
クレーンが下がって、目標通りねずみ色のフクロウを掴み――損ねた。
「はぁぁ? 何このクレーン、握力低くない?」
あぁ……それはUFOキャッチャーに言っちゃ駄目な一言だ。
「くぅ……! 後一回だけ……」
チャリンッ――と音を立てて、また百円玉を投入する千春。クレーンはまたフクロウを掴み損ねた。
「もう良いや」
意外とこういう事に関しては諦めの早い千春だった。――が、その目は「もう良い」と言っていながらも、ねずみ色のフクロウへと注がれていた。
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「美味しい~このパフェ」
「どんだけパフェ食ってるんですか」
時間も時間なので昼食を摂ろうと決まった。何だかんだで結構歩き回ったな……。自分の自由時間もあったけど。
そして昼食に、俺はサラダを、千春はパフェを頼んだ。コイツ、数時間前もパフェを食べていた。
「食べる?」
そう言って、再び差し出されるパフェ。さっきのが確かイチゴパフェで、今回のはチョコパフェだ。
ありがたく一口頂く。流石にパフェにサラダは合わないだろうと思い、交換は遠慮しておいた。
「ん……そうだ。コレ、プレゼントです」
パフェを貰って思い出した。
「へ? これって……さっきの……フクロウ?」
鞄からさっき別れた時に内緒で取っておいたフクロウを取り出す。驚かせてやろうって思ってたけど、結構驚いてくれている。
「良いの?」
そう言って上目遣いで訊いて来る千春。……くっ……その顔は反則だ……
。
「良いですよ。簡単に取れた物なので」
フクロウを千春に差し出すと、彼女はパァッと顔を綻ばせ、それを受け取った。これだけ喜んでもらえるなら……百円払った価値は十二分に在ると言えるだろう。……って何だこれ、ケチみたいに思われそうだな。
「ありがと……」
彼女はそう言い、俯いてしまった。その表情がは全ては窺えないが……微笑んでいる様にも見えた。
「ねぇ……」
「何ですか?」
サラダを食べ進めながら話を訊く。……このサラダ、今度家でも作ってみようか。稟香さんからの受けは良いと思う。
「あたしさぁ……これからもバスケ、頑張ろうと思うんだ」
「………………」
はっきり言って、バスケはやめるかと思ってた。あんな事があったんだ……やめたって不思議じゃない。
でも、彼女が頑張って続けると言うのなら俺は――、
「応援してますよ」
――全力で応援しよう。
「うん、ありがと。……今まで頑張れたのもこれから頑張れるのも、全部……アンタのおかげ」
「え?いやいや、それは無いでしょう。咲紀さん達の方が俺よりも――」
「――違う」
「え?」
ち、違う? 違うって、咲紀さん達の応援よりも俺の応援の方が凄かったって言いたいのか? ……でも、それはそれでどうなんだろう。
「そういう事を言ってるんじゃなくって……あたしからしたら、アンタの応援が一番心に響くし――嬉しいの」
そう言って千春は、輝かしい笑みを浮かべた。




