四月五日――――登校時・教室
咲紀さんのおかげでちょっと気まずいガールズトークをする人が稟香さんしか居なくなった。……が、流石に一人で話をするつもりは無いらしい。
後ろで俯きながらとぼとぼとついて来ている咲紀さんをひとまず置いておいて、今は稟香さんの隣で普通の会話をしている。
「――さて圭兎君、今日から高校生になる訳ですが……何か意気込みとかは無いのですか?」
「意気込みって……特に無いですね」
「そんなのではいけませんよ? 何でも良いから目標を作る事から、人間は成長して行くのですよ」
「えっと……それじゃあ、『みんなと仲良く』で」
「ふんっ……小学生みたいな目標ですね」
「アンタが何でも良いって言ったんだぞ!?」
あまりの傍若無人っぷりに、思わず声を荒げてしまう。これが稟香さんの稟香イズムだ。周りの事は特に気にしていないんだと思う。
やっと学校が規格なって、朝の騒がしい喧騒がさらに大きくなる。やれどこのクラスだーとか、やれアイツも一緒だーとか……何だか本格的に緊張して来た。
「それでは、また後で」
「……ばいばい」
靴を履き替えたら、稟香さんと(俯いたままの)咲紀さんが別れの言葉を告げて来た。稟香さん達は二年生だから、教室は一階で、俺は三階だ。三年生は職員室に用事が多くなるから、職員室の在る二階にしたかったんだとか。
「それじゃ、放課後に」
俺もそう言って階段を上り始める。三階はこの歳でも辛いなぁなんて思っていると、すぐに教室に着いた。戸口に手を掛け、若干の勢いをつけて扉を開く。
「圭兎おおおおおおおお!!! お前何で朝から稟香さんと仲良く登校してんだよお!」
「羨ましすぎるだろ! 咲紀さん俺に譲ってくれよ!」
「飛鳥さんと千春ちゃんを僕に譲ってくれ」
……朝からうざったらしいのが三人近づいて来た。とりあえず三人を無視して自分の席に着く。……確かここだったはず。
「おいおいおいおいスルーはいけねぇなぁ」
何でコイツはこんなに悪役みたいな話し方なんだよ。……まぁ、簡単に紹介すると、さっき最初に発狂していたのが飯門星太郎。次に発狂したのが折弐茂暮夜。最後に発狂(?)したのが天利門漢鯨。三人共珍しい名前だが、俺は特に気にしていない。
ちなみに、飯門は稟香さん、折弐茂は咲紀さん、天利門は飛鳥さんと千春を狙っているらしい。特に手伝ったりはしないけどさ。
「ほら、さっさとしねーと入学式始まっちまうぞ」
何故かこの学校は入学式は現地集合で体育館に向かうらしい。今時珍しい学校だ。まぁ、今回は助かったけど。
「くっそ……覚えてろよおおおおお」
だから何でお前は悪役みたいな話し方なんだよ、と思っていると、飯門は他2人を連れて教室から出て行った。
クラスの大半はもう体育館に向かってしまっている。さてと、俺もそろそろ向かおうかね。
鞄を机の横のフックに掛けて、俺も教室を後にした。