四月二十七日――――登校時
「ね、ねぇ圭君っ」
飛鳥さんとのデートなるものをした翌日の登校中、いつもの様に飛鳥さん、稟香さん、千春はアレな会話をしている。
そんな中、これまたいつもの様に俺と咲紀さんは三人の後ろで世間話をしていた。
「はい、何でしょう?」
咲紀さんの方を見て目を合わせようとしたが、彼女は前髪で目が隠れるくらいに俯いていた。
「あ、あのね……お願いが、有るの」
俺の制服の肘部分をぎゅっと掴んで、咲紀さんがゆっくりと口を開く。その姿を見て、思わず足が止まってしまう。
――可愛い。
反射的にそう思ってしまった。元々綺麗な顔立ちをしていた彼女だが、こうして恥らって顔を隠していても可愛いと思えてしまう。
「な、何ですか? お願いって」
心臓が軽くバクバク鳴っているが、その気持ちを押さえ付けて問う。
「あのね――」
息を呑む。どんなお願いが来ても大丈夫な様に身構える。
「――私、摩周湖に行きたいのっ!」
……ま、摩周湖?
きょとんとしている俺を見て、咲紀さんが少しだけ顔を上げて、
「だめ……かな?」
可愛い……!
「だ、ダメって言うか……どうしていきなり?」
摩周湖って……別にここからなら距離は無いっちゃ無いけど。摩周湖って……。
「えっと……それは……うぅ~……」
彼女は下唇を軽く噛んで、何か言いたい事がある子供の様な顔をしてみせた。いつもの大人びた表情からは想像出来ない、幼い顔。
それが可愛くて、思わず「くっ」と呻いてしまった。
「ダメだよね。……変な事言ってごめんね」
咲紀さんは落ち込んだ様な顔を見せてまた歩き出した。その背中が、何だか寂しそうで……思わず声を大にしてしまう。
「じゃあっ、代わりにはならないかもしませんけど……遊園地、行きませんか?」
遊園地。摩周湖の代わりになんてならないだろう。でも、こんなに寂しそうな背中を見て、「無理ですね~」なんて、俺には言えない。
「えっ?」
咲紀さんは振り向いて、驚きに満ちた表情を見せた。俺の言った事が予想外だった様だ。……そりゃまぁ、摩周湖って言って遊園地だからな。
「や、やっぱダメですよね」
「う、ううん! 行きたい! 遊園地、行こ?」
凄く嬉しそうな顔になって、トトトッと俺の前まで駆け寄って来る。その小動物みたいな仕草に胸が打たれる。
「そ、それじゃあ……今度の土曜日にでも、どうですか?」
「うんっ! ……あれ? 圭君、顔赤いよ?」
っ!? んなっ……!
「あ、赤くないですよ!」
思わずそう叫んで早足になってしまった。くそっ……これだから咲紀さんは……鋭すぎだろ。これじゃあ今の俺の心情も丸分かりだったりしてな。
後ろから、咲紀さんが歩き出した気配がする。
そして、彼女は後ろでポツリと呟いた。
「摩周湖……いつか行こうね。……ありがとう」
と。




