四月二十三日――――朝~夕方
「あの、飛鳥さん」
「ん、何だ?」
千春の大会が終わった翌日。俺は前に言っていた『誕生日のお礼』なるものを実行しようとしていた。
飛鳥さんの誕生日計画の時に――四月十日の帰り道に――飛鳥さんが言っていった『誕生日のお返しがしたい』という話だ。
「この間言ってた、『誕生日のお返しがしたい』って話なんですけど、今日とか……空いてますか?」
「ん、今日は空いてるぞ」
「じゃあ、十時頃からショッピングモールにでも行きませんか?」
「あぁ、分かった」
飛鳥さんは誰も居ないリビングから出て行く時に、半分だけ振り向いて悪戯っぽく微笑み、
「デートだなっ♥」
と呟いて出て行った。
「くっ……」
デートと言われれば、そうなのかもしれない。デートとは男女が組みになって出かけたりするものだからな。……だがそれは家族にも通用するのか……そう言われれば……そうなのだろうか?
いやでも、そもそも俺達の血は繋がっていない訳で。デート……なのだろうか。
現在時刻は八時半過ぎ。デートまで残り一時間半弱。いくら身支度に時間がかかっても、三十分は残りそうだ。さて、どうしたもんか……。
ガチャッ。
ソファにうな垂れて天井を見つめていると、リビングの扉が開く音がした。ボーっとしていた俺は、その音に気付かない。天を仰いで目を瞑っている――まるで寝ているかの様な構図。
「あ、あれ? 圭君……寝てるんだ」
この声は咲紀さんか。よしっここはいっちょ、寝たふりでもしていようか。
「えっと……用事有ったんだけど……夜でもいっか」
用事だと? 急ぎの用ならすぐにでも聞いた方が良いんだろうけど……流石にここまで来て「寝たふりでした~」なんて言う勇気が俺には無い。
「それにしても……何で圭君ってこんなに優しいんだろ……」
ポツリと、咲紀さんが呟く。
……ななな……何をっ……! 表情が変わりそうになるのを、必死に堪える。こ、ここで顔が緩んでしまったら……負けだ!
「はぁぁ……きっと学校でもモテるんだろうなぁ。……彼女とか……居るのかな」
断じて言おう。居ない。
「ふふっ……それじゃあ、おやすみ、けーい君っ」
……ん? 『おやすみ』? ………………って! バレてんじゃねぇか!
「くっそ……やられた……」
再び無人になったリビングで、小さく呟く。気付けば十分消費していた。……時間の流れって速いもんだな。
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「圭兎、今度はあっちに行きたい」
「はーい」
そんなこんなで飛鳥さんとショッピングに来ている。
飛鳥さんが「人混みは危険だから」と言った為、手を繋いで。もう本当に、傍から見れば完璧なデートだった。
昼食を一緒に食べて、デザートなんかも食べたりして、雑貨やらを見て、UFOキャッチャーでキーホルダーを取ってあげたりもして。デートとしか呼べなかった。
「ん、圭兎?」
「あっいえ。何でも無いです」
でもまぁ――デートでも……良い、かな。
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「楽しかった。今日はありがとな、圭兎」
「いえ、こちらこそ」
買い物した袋を片手に、手を繋いだままで路地を歩く。家までは残り十五分くらいで着く距離だ。
「たまにはこういうのも……良いんだな」
飛鳥さんは、どこか遠い目をして呟いた。
……彼女はいつも、部活が忙しくてこういう時間が取れなかった。だから今日はこういう時間が新鮮だったのだろう。たまには息抜きだって必要なんだから。人間。
「あ、飛鳥さん……」
「ん?」
だから、俺の事が好きだと言ってくれた彼女は、あの帰り道に「お礼がしたい」と言ったのかもしれない。そんな事は口実で。
「えっと……俺は、飛鳥さんと一緒に居たいですよ。いや……飛鳥さんは部活とか忙しいからこういう時間が取れないって事は分かってるんですけど、それでも……たまにはこうして、俺と遊びに来ませんか?」
口に出すのは、なかなか勇気の要る事だった。恥ずかしいし。
「圭兎………………。うん、ありがとう」
そして彼女は優しく微笑んで、俺に不意打ちでキスをした。




