四月二十二日――――昼~総合体育館~
四月二十二日土曜日、十一時。
「圭く~ん、準備出来たー?」
「あっはーい! 今行きますー!」
千春が参加する――大会当日。
俺達は四人で――つまり、家族全員で、応援をする事になった。あそこまで頑張っていたんだから、応援に行きたい。……と、咲紀さんが懇願したからだ。
「それじゃあ、行きましょうか」
稟香さんが可愛らしい薄水色のスカートを翻して玄関から出て行く。天気は快晴で、少し暑いくらいだ。もう四月だっていうのに、路肩にはうっすらと雪が残っているのが、この地域の特徴――か。
「なぁ圭兎……ちょっと良いか?」
道中、飛鳥さんが俺の袖をくいくいっと引っ張る。
「何ですか?」
「……昨日、千春がフラフラの状態で帰って来たんだ」
昨日。つまり、大会の前日に、そんな状態になっている。俺は昨日、咲紀さんと買い物に行っていて早めに帰って来た千春の様子は分からなかったが……何でそこまでするんだ。
大体、何で顧問は止めないんだ?おかしいだろ、フラフラになってるのに止めないなんて。
「アタシは――」
そして、飛鳥さんは告げる。自分の気持ちを、嘘偽り無く。
――心配だ。
と。
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ワァァァァァ――! ……歓声が上がる遊技場。とは言っても、総合体育館だが、白熱したバトルがコートを制している。
「頑張れ千春ー!」
咲紀さんは、人一番声を張り上げて応援をしている。もちろん俺、飛鳥さん、稟香さんも千春を応援している。そうだ……ここまで頑張ったんだから報われても良いじゃないか。それぐらいの事はしてくれよ……神様。
手を合わせて、祈り続ける。ここで千春が活躍出来れば、将来が決まるかもしれないのだ。
ピ――――! 「ゲームセットッ!」
そんな声が響いて第一試合は千春の通う、翼川高校の勝利で幕を閉じた。
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「頑張れ千春……」
翼川高校の第二試合まで残り一分を切ると何とも言えない緊張に包まれる。咲紀さんはずっと可愛い妹の為に必死になって応援をしているし、それは俺達三人も同じだ。千春が頑張った事は、何より俺達が知っているんだから。
ピ――――! 「ゲームスタートッ!」
ついに、第二戦が始まった。千春は軽快なステップとドリブルで、来る敵来る敵、全てかわしている。どんどん翼川高校にポイントが入る。内八割は千春が決めていると言っても過言では無いだろう。
スリー、ツー、スリー、ツー、ツー、スリー……千春がものの見事にポイントを奪う。観客はそれに見蕩れて声を失っていた。
「千春頑張れー!!!」
ただ、そんな中に一人だけ、一際声の大きい少女の声。
ツー、ツー、スリー。最早千春を止められる者は、このフィールドには誰も居ない。疾走する千春を眺めるのが精一杯だ。
全く……あんな細い体のどこにそんな力が――
キュッ、ガンッ!
――突如宙を舞う、千春の小さな体躯。
重力に逆らえず、地面に落下する、千春。
「千春!!!」
あの時と同じ、嫌な光景。嫉妬から生まれた、愚かな――裏切り。




