四月十日――――帰り道
「――くれぐれも、安静に」
短いようで長かった俺の病院生活も終わり、やっと開放された。担当してくれた医師の方に頭を下げて、隣に居る飛鳥さんと一緒になって
「「お世話になりました」」
と、感謝の言葉を伝えた。
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「それにしても、すぐに退院出来て良かったじゃないか」
帰り道、飛鳥さんが安心した様な顔でそう言う。この二日間で、飛鳥さんの色々な表情が見れて、内面的な事に触れて――彼女の良さをまた知った。
優しくて、凛々しくて、格好良くて、可愛くて――何よりも俺達家族の事を想ってくれていて……。こんなに良い姉はここにしか居ないんじゃないだろうか……なんて稟香さん辺りに言ったらシスコンだって馬鹿にされそうだけど。
「はい。本当にありがとうございました」
この二日間……いや、この三年間、飛鳥さんには本当にお世話になった。中学一年生の時――母さんが死んでも、彼女は俺を見捨てなかった。
中学二年生の時――少し仲良くなって、俺は彼女を慕う様になった。
中学三年生の時――軽口だって交わせる様になったり、本当の家族だって事に気付かされたりした。
そして今現在――俺にとって、幾人と居ない、大切な人になった。
「ところで圭兎」
家族として、とても大切な存在になった。
「式はどこで挙げるんだ?」
「ぐふっ……!」
……俺の大切な人は姉弟で結婚するつもりらしい。
「し、式って……俺達はまだ付き合ってもいないのに……」
そう呟くと、飛鳥さんは少しだけ不機嫌そうな顔をしてから、
「じゃあ、アタシが付き合ってって言ったら、そうしてくれるのか?」
「まぁ、ソレとコレとは話が別なんですけどねっ」
コキッ。(←俺の手首の間接が外されそうになった音)
「うがぁぁぁ! ……な、何たる暴力姉さんなんだっ!」
地面に片膝をついて、手首を押さえる。くっ……これがバドミントン選手の力なのか! 甘く見ていた様だ……!
「……ふんっ。圭兎もまだお子ちゃまだからなっ」
な、何でこの人はこんなにも怒っているんだろう? 昨日の今日で俺が「式はハワイで挙げたいな」なんて言ったら、俺はそっちの方が異常だと思う。
「まぁ良い。……本題に入るんだが、アタシは誕生日を祝ってもらったお礼をしたいんだ」
と、唐突だなぁ。……ってか、誕生日を祝ってもらったお礼って。
「そんな。誕生日は一年に一度の『祝われる日』ですし、良いですよ」
「いや、あそこまで特大なサプライズをされたんだ。何かしたい」
う~ん、困ったなぁ。
「それじゃあ、今度買い物にでも行きませんか?」
でも、折角の好意だ。甘えさせてもらおう。
「分かった。時間は夜にでも話そう」
「はい」
こういう何気ない日々が、最近凄く好きになった。




