四月五日――――登校時
「あぁ~疲れた……」
俺は自室に戻って、ベッドの上で深く溜め息を吐いた。本当に弁明って疲れるんだなって、今日初めて気が付いた。多分、全体力の三分の一は浪費した。
……と、いつまでもこうしてブーブー言ってはいられない。今日から俺は高校1年生になる。入学式の時間が刻一刻と近付いて来ると、何故だか段々緊張して行くのが分かった。
「ふぅ~……よしっ!」
勢いよく立ち上がり、鞄の中身を確認する。授業道具は揃ってるから……オッケー。忘れ物は? ……無い。
自問自答をして、部屋の扉を開ける。もうそろそろ家を出る時間だ、きっと姉達は俺を待っているだろう。
「お待たせしました」
ソファの上でくつろいでいた四人にそう声を掛ける。
「おっそ」
「もう先に出るところでしたよ」
……きっと俺を待っているはず!!!
「とまぁ、冗談は置いておいて……行きましょうか」
あっ、冗談って言ってくれた。普段は毒舌とかキツいけど、やっぱり稟香さんも優しい姉だな、と思ってしまうのがどうにも悔しい。
「行って来ます」
誰も居ない家の中にそう言ってから学校に行く。これも橋﨑家の掟の様なものである。俺は家族で一緒に何かをするのは嫌いじゃないから、こういうのは気に入っている。
……こういうのだけは。
「最近の子はアレだな。小学生で彼氏持ちっていうのが多いらしいな」
「しかも年上とかなんでしょー?」
「そうらしいですね。あっ、あそこに小学生がいますよ。訊いてみましょうか」
飛鳥さんから始まり、千春、稟香さんといった順番でガールズトークが繰り広げられる。そういえば……どうしてこの人達はこんなに可愛い顔をしているのに彼氏がいないのだろうか?
ちなみに俺と咲紀さんは、少し離れたところを歩いて行く。咲紀さんはこういう話には疎いので、顔を真っ赤にして俯いている。……余計なお世話だけど、こんなんで告白されたりした時の対応とかどんなんなんだろう。
まぁ、俺と稟香さんと咲紀さん、飛鳥さんと千春とでは学校自体が違うので、こんな話ももうすぐお終いになる。
俺と稟香さんと咲紀さんは普通校に進学し、そこそこの成績を保っている(俺の場合は)。稟香さんと咲紀さんは成績が最早別格なので、もう少し上の高校を狙えたはずだが。
そして飛鳥さんと千春は部活で活躍しているバドミントンとバスケットボールで推薦を貰い、スポーツ校に進学した。勉強の方はまぁ……だが、赤点を取るとまではいかない。
「でも付き合ったらどうするんだろ?」
「いろいろと難しそうだよな。手を繋いだり――」
「――キスとかもタイミングが重要ですからね」
……おおっと、飛鳥さん&千春が通う高校との分かれ道付近で、さらに会話が脱線し始めてしまった。そろそろ止めようかと思って口を開いたその時――、
「――な、な、何て会話してるのよ! 少しは女子としての恥じらいってものを持ちなさいよばかぁー!」
咲紀さんが耐え切れなくなったのか、道の真ん中でそう叫んだ。……咲紀さん、あなたこそ女子としての恥じらいを持って下さい。みんな見てます。……とはもちろん言えないので、咲紀さんから距離を取るという、行動で示してみた。
すると、咲紀さんは元々赤かった顔をさらに赤くして、学校とは反対の方向に走り出してしまった。
「さ、咲紀さん! 学校反対! そっちじゃないですよ!」
少しだけ遠くに居る咲紀さんにそう呼び掛けると、咲紀さんはピタッと止まって百八十度方向転換。そしてそのままゆっくりと静かに歩き出した。