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四月九日――――朝

 四月九日――天気は快晴。今日も良い事がありそうだ。


「いやぁ……本当に良い事でもありそうな日だなぁ……」


 止まらない欠伸を噛み締めながら、そう呟いてみる。こういう小さな幸せってのが良いんだよな。なんて思いながらも病院の屋上に出てみる。基本的に病室は携帯電話の使用禁止だから、メールの確認は屋上を使用しているのだ。


 ギィィ……。


 重たい扉を体全体で押し開けると、外の冷たい空気が体を包んだ。時刻は午前五時半。まだ外は寒い時期だ。


「ええっと……」


 屋上のベンチに腰掛けて、携帯電話の電源を入れる。未読のメールが五件と、着信が二件入っていた。

 とりあえずメールから先に確認してみると、咲紀さん、千春から『大丈夫?』的なメールが来ており、後は稟香さんから『昨日は平静を保てずにすみませんでした』的なメールが来ていた。

 残りの二件は、飛鳥さんと誰かから、


『今日、アタシと出かけるみたいな事言ってたが、アレは無しになるのだろう?』


 と、来ていた。ってええええええええ!?


「忘れてたぁぁぁああ! いや、忘れてはいなかったけど忘れてたぁぁ!!」


 今日飛鳥さんの誕生日じゃねぇか!

 そして残りの一件も確認。差出人は飛鳥さんの誕生日を盛大に祝うのに協力してもらった、おじさんからだ。


『今日のアレ、こっちの準備は万端だぜ! 後はお前に任せた色男!』


 あぁぁぁぁ! もういっそ殺せ! 姉の誕生日を忘れる弟なんて! ………………だが…………まだ間に合うっ! 飛鳥さんからはついさっきメールが来てたから、今電話しても大丈夫だろう。


 Prrrrrrrrr、Prrrrrrrrr――ガチャッ。


『もしもし? 圭兎か……体は大丈夫なのか?』


「はいっ! 俺は全然大丈夫です!」


『そうか。それは何よりだ』


「それでですね……この間の出かけるって件なんですけど……」


 案の定、飛鳥さんはすぐに電話に出てくれた。部活は昼からなのにこんなに朝早くに起きているなんて……流石だ。


『ん、あぁ。アレか……お前もそんな状態だし、止めにした方が良いんじゃないのか?』


「い、いえ! そこを何とか……お見舞いに来てくれませんか?」


『見舞い? ……だが、それは元々圭兎が望んでいた事ではないんだろう? それならまたの機会にした方が懸命だろう』


 くっ……それは正論だ。本来の目的じゃないのに遊ぶなんて、無意味だろう……ここで俺が吐ける嘘は二つ。


 ①元々病院に来る予定だと伝える。


 これは得策では無い。病院に出かけましょうなんて、普通は言わないだろうからな。後の一つは――、


 ②本当は出かけるなんていうのは口実で、ただ飛鳥さんと一緒に居たかったと伝える。


 うん、俺はとんでもないシスコンになってしまうだろう。どちらも得策ではない。だが、どちらかと言うと――


「……実は――本当は出かけるなんていうのは口実で、ただ飛鳥さんと一緒に居たかったんです」


 相手には伝わらないが、真顔で言った。どうしよう……俺の評価がとんでもないものになっている気がする。


『け、圭兎……』


 飛鳥さんは引いたのか、言葉に詰まっている。くそぉ……! 何で俺が姉の誕生日を祝うのにこんな嘘を……!


「いやえっと――」


『そうか……そんなにアタシと一緒に居たいのか……全く、圭兎は恥ずかしがり屋さんだなっ』


「……え?」


 何だか、良い様に誤解されてる気がするんだけど。


『そんな回りくどい事しなくても、アタシと一緒に居たいって言ってくれればアタシは部活だって休むのに……もう……』


 え? 何でこの人こんなに乙女っぽくなってるの?


『分かった。じゃあ今日、部活が終わったら直行するから……待っててくれ』


「あ、はい。ありがとうございます」


 『じゃあ後で』と言って、飛鳥さんは電話を切った。………………ちょっと待って。何だか俺の中で飛鳥さん像が見る見る内に崩れてるんだけど。飛鳥さんってあんなに可愛い声出してたっけ?


「ってちょっと待てぃ!」


 肝心な事を忘れてた! この場所で見えるのか?


 俺の住むこの地域で一番面積を占めているんでは? と疑ってしまう、アミューズメントパーク……所謂いわゆる遊園地に在る――


「見えたっ!」



 ――特大の大観覧車。




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