四月八日――――夕方
来る土曜日。今日は稟香さんと買い物に行く約束をしている。集合場所は駅前ショッピングモール。俺の役割は――――荷物持ち。
「圭兎君、次はあそこのお店に行きましょう」
まぁ、楽しんでくれてるみたいだから良いんだけどっ。……でも、どんだけ買うんだ? この量はおかしいぞ。もう両手がふさがってるし。
「早くして下さい」
そう言って俺の手を掴み、引っ張る稟香さん。今日は土曜で人が多いから、こうしてもらえると迷子にならなくて済むから助かるけど……これはこれで恥ずかしい……。
「次はどこをまわりますか?」
目当ての店から出て来た稟香さんにそう尋ねる。
ちなみに今までの経路は服屋→服屋→雑貨屋→服屋だ。それも一店一店、長い時間をかけたりすぐに出て行ったりと、まちまち。
「本屋さんにでも……」
おぉ、それなら俺も楽しめる。……正直、女物の服を見て回っても、男の俺は喜べない。雑貨屋はまぁまぁ楽しめたけど。
「えっと、本屋は五階ですね」
現在は三階。エレベーターで行くのも良いんだけど、待ってる時間がもったいないから階段を使う事にした。
一段一段上って、四階と五階の間の踊り場で、急に稟香さんが足を止めた。
「圭兎君」
「はい?」
「私と遊びに来て……楽しいですか?」
一瞬考える。そして即答。
「そりゃもちろん」
俺の答えを聞いて、パァッと顔を明るくする稟香さんを見ていると、何だか不思議と安心出来た。いつもこんな風に笑ってくれてると俺も嬉しいんだけどね……。
「さてと……そろそろ帰りましょうか」
あれから本を買ったりゲームをしたりした俺達は、十七時になったので帰ろうという事になった。夕飯の準備がある俺を気遣ってくれたんだろう。やっぱりこういうところは姉だ。たくさんの荷物を両手に、ショッピングセンターから出た。
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帰路に着いて少し歩くと、近所の公園が見えて来た。……そういや昨日、ここで咲紀さんと色々話したな……。
「圭兎君、少しだけ寄って行きませんか? 休憩でもしに」
「ん、良いですよ」
公園を指差して微笑む稟香さんについて行く。四人掛けくらいのベンチに腰掛け、隣に荷物を置いた。……はぁ、重かった。
「今日はありがとうございました。おかげで助かりました」
「いえ、俺の方こそ」
そんな何でもない会話をして、和む。こんな風に話せる日が、ずっと続けば――
「あっれ~? あのガキ、高津んとこのじゃねぇか?」
――少し遠くから、下卑た声。昔……小学校高学年の時に聞いた、声。
「アイツらっ……!」
――俺の、本当の父さんの……借金取り立て人。
「圭兎君……あの人達は?」
「稟香さん……逃げて下さい」
「でも――」
「早く!」
俺の服の袖を掴んで固まっている稟香さんの背中を無理矢理押した。が――
「おおっと、行かせねぇぜ」
奴らの……取り立て人の中の一人の男に、稟香さんが捕まってしまった。
「あっおい! 離せ!」
必死に男の腕を掴んだが、振り解かれて、鳩尾に重たいパンチを食らわされた。
「かはっ――」
嘔吐しそうになる様な、気持ち悪い感覚。これだけで気を失えるんじゃないかって程に強い、大人の力。力量さを見せびらかしているかの様な、下品な笑い声が公園に響く。
膝をついて顔面から地面に崩れ落ちる。両手は鳩尾を押さえるのに一杯一杯だ。もうこのまま気を失うんじゃないだろうか――
「け、圭兎君っ」
――いいや、俺にはまだ、やる事があるじゃないか。
俺にはまだ、護るべき人がいるじゃないか。




