四月七日――――帰り道
稟香さんが俺に言ってくれた『好き』は、納得がいく。玄一さんとの件で俺の事が好きになった……と。それは分かる。明確な理由が在るからだ。だが、今の……咲紀さんの場合は……どうだ?
「私……こういう気持ちって初めてだから、上手く伝えられないけど……」
俺の思考が停止している中で、話が進む。……出来れば待っててほしいんだが。何? 好きってどういう好きなんだ?
「圭君が始めて家に来て、一緒に生活し始めて……一緒にご飯作る様になって、登下校する様になって……惹かれていって……」
ちゃんと目を見て、切々と語る咲紀さんは、そうしているだけでもの凄い破壊力があった。
「ちょ、ちょっと待って下さい――好きって……どういう――」
「もちろん……!」
「恋愛的な意味でっ」
あぁ、何だか本格的に分からなくなって来た……。待て、落ち着け橋﨑圭兎。相手はあの咲紀さんだ嘘なんて……吐かないよなぁ。
「えっと……とりあえず――」
「う、うん」
「――買い物に行きましょう」
「っへ?」
咲紀さんは一瞬息が止まったかの様に止まってから、驚きの声を発した。くっ……やっぱりこれじゃあ誤魔化せないか!
「………………………………うん」
と思ったが、意外にあっさり承諾してくれた。あれ? もう少し食い下がって来るかと思ったけど……。
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「鶏肉下さい」
「……」
「キャベツと人参と……後、ナスも下さい」
「……」
「咲紀さん、後は何を買いましょうか?」
「……知らないっ」
………………。本屋を出て以来、ずっとこの様子だ。くっ……やっぱりあの流し方はダメだったか! まぁ、そうだよな。好きって言ったら買い物しましょうだもんな。自分のクソ野郎!
「あっえっと……み、味噌汁の具は何にしましょう?」
「……知らないっ」
予言しよう。無限ループだぞ、これは。
「おぅ咲紀ちゃん! 今日も美人だねぇ!」
「ありがとうございます」
ちょっと待て。何で俺じゃなくて市場のおじちゃんには返事するんだ。おじちゃんだぞ!? 俺は家族だぞ!?
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家路に着いて少し歩くと、近所の公園が見えて来る。咲紀さんはさっきからずっと黙ったまま。次第に俺も話しかけるのをやめ、歩くのに没頭している。
「………………」
「………………」
こんな空気は初めてだ……。重っ苦しいくて逃げ出したくなる。
「………………ねえ」
「は、はい?」
今までは聞いた事が無い様な、冷たい声。
「そんなに可笑しい? 私が圭君を好きだったら……」
「えっいや……可笑しいって言うか……いきなりでビックリしてって言うか……」
「はっきりしないなぁ……」
不満気に呟く咲紀さんは、ご機嫌斜めだ。
「でも――」
「でも?」
「――可笑しくはないですよ。少なくとも俺は可笑しいなんて、絶対思いません。人の好きな人を、可笑しいだなんて笑ったりは絶対にしません」
「っ――!」
目を見開いた直後、顔を伏せる咲紀さん。え? 俺何か変な事言ったかな……。
「――そーいうとこが好きなのよ……ばーか……」




