表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/98

四月七日――――帰り道

 稟香さんが俺に言ってくれた『好き』は、納得がいく。玄一さんとの件で俺の事が好きになった……と。それは分かる。明確な理由が在るからだ。だが、今の……咲紀さんの場合は……どうだ?


「私……こういう気持ちって初めてだから、上手く伝えられないけど……」


 俺の思考が停止している中で、話が進む。……出来れば待っててほしいんだが。何? 好きってどういう好きなんだ?


「圭君が始めて家に来て、一緒に生活し始めて……一緒にご飯作る様になって、登下校する様になって……惹かれていって……」


 ちゃんと目を見て、切々と語る咲紀さんは、そうしているだけでもの凄い破壊力があった。


「ちょ、ちょっと待って下さい――好きって……どういう――」


「もちろん……!」



「恋愛的な意味でっ」



 あぁ、何だか本格的に分からなくなって来た……。待て、落ち着け橋﨑圭兎。相手はあの咲紀さんだ嘘なんて……吐かないよなぁ。


「えっと……とりあえず――」


「う、うん」


「――買い物に行きましょう」


「っへ?」


 咲紀さんは一瞬息が止まったかの様に止まってから、驚きの声を発した。くっ……やっぱりこれじゃあ誤魔化せないか!


「………………………………うん」


 と思ったが、意外にあっさり承諾してくれた。あれ? もう少し食い下がって来るかと思ったけど……。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「鶏肉下さい」


「……」


「キャベツと人参と……後、ナスも下さい」


「……」


「咲紀さん、後は何を買いましょうか?」


「……知らないっ」


 ………………。本屋を出て以来、ずっとこの様子だ。くっ……やっぱりあの流し方はダメだったか! まぁ、そうだよな。好きって言ったら買い物しましょうだもんな。自分のクソ野郎!


「あっえっと……み、味噌汁の具は何にしましょう?」


「……知らないっ」


 予言しよう。無限ループだぞ、これは。


「おぅ咲紀ちゃん! 今日も美人だねぇ!」


「ありがとうございます」


 ちょっと待て。何で俺じゃなくて市場のおじちゃんには返事するんだ。おじちゃんだぞ!? 俺は家族だぞ!?


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 家路に着いて少し歩くと、近所の公園が見えて来る。咲紀さんはさっきからずっと黙ったまま。次第に俺も話しかけるのをやめ、歩くのに没頭している。


「………………」


「………………」


 こんな空気は初めてだ……。重っ苦しいくて逃げ出したくなる。


「………………ねえ」


「は、はい?」


 今までは聞いた事が無い様な、冷たい声。


「そんなに可笑しい? 私が圭君を好きだったら……」


「えっいや……可笑しいって言うか……いきなりでビックリしてって言うか……」


「はっきりしないなぁ……」


 不満気に呟く咲紀さんは、ご機嫌斜めだ。


「でも――」


「でも?」


「――可笑しくはないですよ。少なくとも俺は可笑しいなんて、絶対思いません。人の好きな人を、可笑しいだなんて笑ったりは絶対にしません」


「っ――!」


 目を見開いた直後、顔を伏せる咲紀さん。え? 俺何か変な事言ったかな……。



「――そーいうとこが好きなのよ……ばーか……」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ