四月七日――――夕方
「はぁぁ……何か凄いの食べたわ……」
登校中、隣を歩く咲紀さんが死んだ魚のような目をして呟く。しかし、免疫のある俺はともかく……よく三人とも生還したな。これに懲りてもう千春には料理をさせないでほしい。……本人は「また作ろっかな」なんて言っていたけど。
「……そうだ、それで思い出したんですけど、今日の晩ご飯は何にしますか?」
「ん~……野菜炒めとお味噌汁と……蒸し鶏にしよっかな」
「了解です。……えっと、それでなんですけど……買い物行く前にちょっと本屋寄ってもいいですか?」
「うん、もちろん」
輝かしい笑みでそう言ってくれる咲紀さん。稟香さんに同じ事を言ったら「却下」と言われそうだけど……やっぱり優しいなぁ。
「じゃあ放課後、玄関で」
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何でもない時間が過ぎて放課後。約束通り玄関に向かう途中、偶然にも稟香さんと廊下でばったり出くわした。
「あらあら、これから楽しいデートですか?」
「まぁ……そんなとこです」
「そうですか。………………それじゃあ、また後で」
「はい」
何だか今、悲しそうな顔してたけど……気のせいかな?
「お待たせしました」
「ううん、待ってないよ?」
稟香さんと別れて生徒用玄関に着くと、いつもの如く咲紀さんが先に来て俺を待つ事になっていた。
素早く靴を履き替えて咲紀さんと歩き出す。周囲からの視線が突き刺さる。……だからこんな可愛い人の隣歩くのは嫌なんだよな。
橋﨑家の四姉妹は学校でも可愛いと有名で、俺は隣を歩くのが日に日に嫌になっている。
「どうしたの、圭君?」
「いえ……咲紀さんって可愛いですよね」
「えっ……えぇぇぇぇ!? ななっ、何、急に!?」
「い、いえ……何でもないです」
何で咲紀さんはこんなに取り乱しているんだろうか? そんなに騒いだらまた見られるのに。
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「ええっと……お、あった」
本屋について、早速お目当ての本を探す。今日は長編ミステリー小説の発売日だ。今日をどれ程楽しみにしていた事か……!
「あれ? 咲紀さんは?」
会計を済ませて辺りを見回すが、咲紀さんの姿は無い。気になる本でもあったんだろうか?
店内をぐるぐると歩き回っていると、少しだけ遠くの本棚の前で一冊の本を開き、読み耽っている咲紀さんがいた。
「咲紀さん、何読んで――」
「――きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」
近付いて声をかけたら、いきなり悲鳴をあげられた。……って待て! これじゃあ俺が変態みたいじゃないか!
「あっ圭君か! 良かったぁ……」
すっげぇ店員さんに睨まれてるんですけど。
「えっと……何かごめんなさい。……会計終わりました」
とりあえず謝って会計済みを表す袋を掲げる。
「あっうん。行こっか」
「は、はい」
俺の背中を押しやって、持っていた本を本棚に戻す咲紀さん。くっ……何でそこまで見られたくない本を読んでるんだ、この人はっ!
「……ねぇ、圭君」
だが、すぐに背中を押すのをやめて俺の袖を掴む咲紀さん。
「はい」
「私ね………………圭君の事………………………………」
え? 何この状況?
「……好きなんだ」
そして、咲紀さんの方を見た瞬間、さっきまで彼女が持っていた本のタイトルが目に入る。
『好きなカレに告っちゃおう! ~百の助言~』




