四月七日――――朝食
麗らかな日差しが差し込むリビング。春の暖かさに、思わず欠伸が出てしまう。そんな平和なこの季節。平和な橋﨑家のリビングに――
――死体が三つ。
「どうして……こうなった……」
理由を説明しようではないか。
今日の朝食当番が千春だから。
説明終了!
「はぁ~美味しかった」
殺人料理を作った本人は、完食して満足そうだ。ちなみに俺は一口も食べていない。牛乳を飲みまくっていた。
「あれ? 何でみんな倒れてんの? 行儀悪っ」
いやアンタのせいだよ。……とは言えない。まさか自分の料理が殺人級だとは知らずに食器を片付け始める千春。さぁ、俺はどうしようか……。
ここでこの異物(一応原材料は食料)を食べなければ俺の命は助かる。だが、ここで食べなければ怪しまれるだろう。さぁ、どうする橋﨑圭兎!
「……くっ……」
自分の人生を棒に振るうか考えていたところに、飛鳥さんが何とか立ち上がった。おぉっ! 生きてたのか!
「まさか……ここまでとは……!」
事の発端はこの飛鳥さん。
いつも千春が朝食当番の日はトーストをただ焼いただけだった。だが、今朝になって飛鳥さんが「たまには違うのを作れないか」と言ってしまったのだ。
まさか、それが原因で自分がひん死状態に陥るなんて、思いもしなかっただろう――。
「あっ起きたんだ。さっさと準備しないと学校遅れんぞー」
千春が台所で食器を洗いながらひん死状態の三人に声をかける。この3人で得に酷かったのが、咲紀さんだった。
食べた瞬間、そのまま正面から机に頭をガンッとぶつけて動かなくなった時はもう手遅れかと思ったな。その後、間髪容れずに二人が倒れた時は……もう家族崩壊の危機かと思ったが。
「げふっげふっ……何これ……どういう作り方したのよ……」
咲紀さんが額を押さえながら起き上がる。良かった、生きてた。
「人類の最終兵器ものですね……ここまで来ると……」
そして最後に稟香さんも起き上がった。ってか、この件に関しては飛鳥さんと稟香さんは何も言えない気がするんだけど。
「圭兎くぅん? その異ぶ――いえ、トースト(笑)、ちゃんと食べますよねぇ?」
稟香さんが凍り付いた笑顔で問いかける。訊かれた俺はさっきからずっと牛乳を飲んでいる。これで何杯目だろうか。
「さもないと――」
そう言って、稟香さんが俺の耳に口を寄せて囁く。
「――学校でダーリンって呼びますよ♥」
「何だこのトースト、美味しいなぁ!」
俺は思う。本当に稟香さんは俺の事が好きなんだろうか――と。