四月七日――――朝
ピピッ――ピピッ――ピ――。
翌日、目覚ましが鳴る前に目が覚めた俺は、ベッドの上で天上を見詰めながら考え事に耽っていた。
『あのさ……圭君って、稟香ちゃんの事――――好きなの?』
繰り返される、昨日の咲紀さんの言葉。結局昨日はすぐに飛鳥さんと千春が降りて来て、俺に謝ってうやむやに出来たから助かったけど。
「好き……か」
正直、自分でも分からない。『好き』という感情が今のこの気持ちに当てはまるのか……。
もちろん、姉弟としては好きだ。だが、咲紀さんの言った『好き』はきっと……恋愛感情。
コンコン。
そんな時に響く、扉を叩く音。
「どうぞ」
上体を起こして返事をする。誰だろう……。
「圭兎君、起きてますか?」
稟香さんだ。……顔が赤くなってる様な気がするけど……気のせいだという事にしておこう。
「あ、はい。今行きます」
きっともうご飯が出来ているから呼びに来てくれたんだろう。……確か今日の朝食の当番は千春だったっけか? ……朝からどんなボリュ―ミーなものが食べられるんだろう。
「……あの」
ベッドから出て制服に着替えようとワイシャツに手を伸ばすと、稟香さんがトコトコと近寄って来た。……てっきりもう下に降りたかと思ってた。
「――――っ!?」
そして俺の正面までくると、いきなり抱き付いて来た。
「昨日は本当に……ありがとうございました」
シャンプーとリンスの香りが鼻腔をくすぐる。いつもは意識していなかった、稟香さんの体の柔らかさがはっきりと分かる。
「あっいや! べべべ別に、俺はなっ何も……」
所々、声が裏返った。ヤバい……完全に意識してる。稟香さんを、異性として認識してる……。
「ふふっ――それじゃあ、下で待ってますね」
俺の心中を察したのか、稟香さんが俺から離れて悪戯っぽく微笑む。くっ……何でこんな可愛い顔すんだ……反則だろ。
部屋から出て行こうとした稟香さんが、少しだけ振り返り、囁く。
「ダーリン♥」
ぐぼぁ!
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「おはようございます」
リビングに入ってすぐに挨拶をする。それがこの家のきまりだから。
「あ、おはよう圭君」
「おっそ」
「まだ寝ていたのか」
みんながいつも通りの挨拶を返してくれる。それだけで、家族が戻って来たみたいで安心する。やっぱりこの家族にはこういう温かさが大切なんだよな。
そして、稟香さんは……、
「おはようございます」
……いつも通りの席に座り、いつも通りの挨拶を返してくれた。
くそっ……さっきの「ダーリン」発言が忘れられねぇ……!
気持ちを落ち着かせる為に、顔を洗う。
今日も一日、邪念に犯されずに頑張るぞ!