四月六日――――夕方~夜
(――――Saki Side――――)
ちょっと待ってよ……! いきなりそんな……手なんて握られたらビックリするじゃないの……! 圭君のバカぁ!
「さてと、それじゃあ続きしましょっか」
私の手が大分温かくなったところで、圭君は私から手を離した。うぅ……何だかちょっと惜しい気も……。
フライパンをに火をかけて温めている圭君の姿をつい見詰めてしまう。
「ん? どうしました?」
「ななな何でも無い!」
慌てて目を逸らす。……~っ! 何でこんなにドキドキしてんのよ私!
「け、圭君はさ……もしも、もしもだよ? わっ私に好きって言われたらどうする……?」
ずっと気になっていた事を、勢いで訊いてしまった。
ってバカ! 何訊いてんの!? これじゃあまるで私が圭君の事好きな子みたいじゃない! 否定はしないけど……肯定なんてしないんだからね!
「病院に連れて行きます」
「あぅ……」
びょ、病院って……。私が圭君の事を好きって言ったらおかしいのかな? でもでも、好みなんて人の自由だし……。おかしくなんてないよね?
それっきり、その話はどちらからも振らなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「うん、これで準備は終了だね」
すっかりいつもの調子を取り戻した私がポンッと手を打つ。やっぱり毎日の事だけど、圭君と料理をしていると色々と話も出来るし楽しいな……。
「お疲れ様でした」
圭君が笑顔でそう言ってくれる。それだけで幸せになって来るこの感情は本当に何なのよ……。
時刻は十八時。まだ飛鳥と千春は部活をやってる頃だよね……稟香ちゃんは結局起きて来なかったし。
しばらくの間、圭君とリビングのソファに腰掛けていると、
タンッタンッ。
と、階段の方から音がして来た。稟香ちゃん起きたのかな? 随分具合悪そうで早退してたけど……大丈夫かな?
ガチャッ。
リビングの扉が開かれる。そこから現れたのは、やはり稟香ちゃんだった。こうして改めて見たら、すっごく綺麗な顔してるなぁ……なんて、女の私でも見とれてしまう。
「ん、稟香さん。具合はどうですか?」
「まぁ……大丈夫ですよ、覗きおと――「ああああああああああああ!!!!!!!」――」
あれ? 何で今圭君は稟香ちゃんの言葉を大声で遮ったんだろ? 覗きおと……覗きおと……こ……覗き男?
「何て事をお茶の間で……!!!」
圭君が稟香ちゃんを親の仇でも見るかの様にしているけど、何かあったのかな?
「……咲紀さん、おかえりなさい」
「あ、うん。ただいま」
いきなり挨拶して来るところは稟香ちゃんイズムだけど、こうやって挨拶が出来るっていうのは、結構凄い事だと思う。姉弟で挨拶って、私はイメージ無いからなぁ。
「そういや、前から解けなかった数学の問題が在るんですけど……どちらか教えてもらえませんか?」
唐突に、圭君がそう切り出した。す、数学か……苦手じゃないけど、稟香ちゃん程は出来ないしなぁ……。
「私が教えましょうか?」
あぅ……稟香ちゃんに先越されちゃった……。
「ありがとうございます……って言いたいところですけど……稟香さん、体調に影響はありませんか?」
「大丈夫ですよ」
「……それじゃあお言葉に甘えて。今持って来ますね」
圭君が立ち上がってリビングから出て行く。すると、今度は入れ替わりで稟香ちゃんがソファに座った。そういえば、あんまり二人で話す事って無いなぁ……。
(――――Keito Side――――)
えっと……数学の参考書は……あれ?どこしまったっけ?
机を漁ってみて、思い出す。そういやこの間図書館で勉強した時に使った鞄に入ったままか。
「ええっと……お、ビンゴ」
俺の推理通り、図書館に持って行った鞄の中にそれは在った。
なるべく稟香さんを待たせないように、と階段を駆け下りる。途中で転びそうになったのは誰にも言わないけど。
ガチャッ。
リビングの扉を開くと――
――咲紀さんが顔を真っ赤にして窓から飛び降りようとしていた。
「おいぃ! 何してんですか!?」
「は、離して圭君! 私はもうダメなの!」
「早まんないで下さい! ここは一階ですよ!? 降りても足の裏に砂利がつくだけですって!」
「いやあああ! 言わないで! そんな事言わないでえええ!!!」
何だろう……今までこの家で生活していて、初めて咲紀さんの悲鳴を聞いた気がするなぁ……。
「全く……愉快な二人ですね」
「何で稟香さんはそんなに穏やかなの!?」
今日も、平和だなぁ……。