四月六日――――昼食・自室
激辛フレンチ(?)トーストと牛乳五杯を飲み終えた俺は、早速溜め息を吐いた。願わくば残りの三枚は本当のフレンチトーストであってくれ、と神に祈る。最悪の場合は咲紀さんの作ってくれたフレンチトーストがあるはず……。
そう思って手前に在ったもう一枚のフレンチ(であって欲しい)トーストに手を伸ばす。呼吸を整えてから一口。
「こ、これは……! フレンチトースト特有の湿った感触が……皆無! ……ぐはっ! 何だコレ!? 表面はバリバリで中身はゴワゴワ!? ってか苦えええ!!!」
見た目的にヤバかったけど、それでも俺の中の好奇心というものが働いてついつい手に取ってしまった。くそっ……俺の好奇心のバカ!
ってか、何でコレってこんな苦いの? 何か青汁みたいな味すんだけど……まさか、ね。
たまに飛鳥さんの料理は殺人級だと思う。……もうこのノットフレンチトーストは絶対に飛鳥さんの手作りだろう。
何とか口に押し込み押し込み、二枚目も完食した。残るは二枚……咲紀さんが作ったフレンチトーストを食べる事が出来れば、俺の味覚は一時的に回復される。だが、ここで稟香さんの作ったフレンチトーストを食べれば、俺は……俺の命は……!
「……よしっ!」
覚悟を決めて残りの二枚の内の、今度は右側を手に取る。さっきは左側を取って悲惨だったからな。今度こそは……頼む!
先の二枚よりも大きく一口目を頂いた。……ほんのりと広がるバターの香り、後々から攻めて来る――
――塩っ気。
「はっ!? しょっぱ! 何コレ!? フレンチ感どこにも見当たらないんだけど!? 大体、そもそも何で砂糖と塩を間違えるかなぁ! 稟香さん!」
――シーーーーーン。
何だろう、空しくなって来たから止めよう。誰も居ない家で一人叫ぶとか、もう……嫌だ。何故だか目から零れて来るのは汗だろうか? 可笑しいなっ、家の中はまだ涼しいくらいなのに。
それにしても……よくもまぁここまで……。最早尊敬してしまう。これって誰得フレンチトースト? きっと稟香さんファンしか喜ばないだろう。
……稟香さんファン、喜んでくれるよね?
「ぐふっ……」
三枚目を食べ終わって、初めの牛乳五杯が効いて来たのか、お腹が膨れて来た。残るは一枚。辛うじて生きてるみたいなこの身体には回復薬とも言える、一枚のトースト。
随分大袈裟に聞こえるかもしれないが、俺は至極真面目だ。命懸かってるし。
最後の一枚を掴んで口に運ぶ。これぞフレンチトーストと言わんばかりの味。甘みがあって、辛味も苦味も塩味でもない。甘さだけが口に残る、絶品。
「母さん、生んでくれてありがとう」
本気でそう思った。マジ今までフレンチトーストなんて不味いとか言ってゴメン。母さんに教えてもらった通りに、今度フレンチトースト作ってみるよ。そしたら仏壇に上げるから、待っててね。
実母に感謝の言葉を捧げて、フレンチトーストを完食した。本当に、最後の一枚が奇跡的に美味しかった。ありがとう咲紀さん。
食器を台所で洗って、部屋に戻った。稟香さんは寝てろって言ってた(書いてた)けど、やっぱり学生の本分は勉強勉強。
机に向かって、今日習うかもしれない箇所を探す。……ていうか、高校生活始まって二日目休むとか……何か不登校だと思われたらどうしよ。