四月五日――――朝
ピピッ――ピピッ――ピピッ――ピピッ――ピピピピッ――ピピピピッ――ピピピピッ――。
今まで無音だった部屋に、目覚まし時計のアラームが鳴り響く。目を開かずに、感覚だけで頭上に手を伸ばす。心なしか、いつもよりも体が重たく感じる。
ピピッ――ピ――カチッ。
再び部屋に沈黙が訪れる。黙っていれば一分も経たない内に眠りについてしまう朝五時。俺は目を擦ってベッドの上で大きく伸びをした(ついでに欠伸も)。……やっぱり体が重たい、そう思って上半身を起こして足元を見てみる。
「はっ、ちょ! 飛鳥さん!?」
俺の下半身に縋る様にして抱き付いているのは、姉の橋﨑飛鳥さん。俺達姉弟の中で一番お姉さんに当たる人。
強気な目元にサラサラの髪。女子バドミントン部のキャプテンという事もあってか、責任感が強くてしっかり者。でも恥ずかしい時には耳の先まで真っ赤になって俯くという、非常に可愛らしい面も在る。そのギャップがこれまた異性の目を惹く。
「んぅ……」
そしてこの無防備な所も、俺の目を惹く。
「飛鳥さん、起きて下さい! ってか何でいつも俺のベッドで寝てんだ? ……ほら、起きて下さいってば!」
必死になって飛鳥さんの体を揺するが、まるで起きる気配が無い。そっか、そういえばこの人の寝覚めは最悪だった。
と、俺のそんな心の声が届いたのか、階段を上がって来る音が微かに聞こえる。おぉっ! 救いの手か?
ガチャッ。
ずっと待ち望んでいた、扉を開く音が聞こえる。流石姉弟! 以心伝心ってヤツか! 血は繋がってないけど。
「圭兎君? 朝ですよ、ご飯が冷めてしまいます」
扉の隙間から少しだけ顔を出してモーニングコール(直接)をしてくれたのは、稟香さん。これまた俺の姉だ。
飛鳥さんと同じ強気な目元だが、どこか優しさを感じる(飛鳥さんの目元に優しさが無い訳ではない)。
腰まで有るだろう髪は縛るのにバリエーションが豊富で、いつも何かしら髪型が違う。美術部部長にして絶大な人気を誇る稟香さん目当てで入部して来る新入生も、そう多くは無いらしい。
毒舌はちょっとキツイが、それでも優しい時は滅法優しいという、ギャップ萌えが学校でも騒がれた程だ。
「お、おはようございます。稟香さん」
俺の部屋の……いや、俺の状態を見て、稟香さんの目がスッと細められた。世間一般で言う『ジト目』と言うヤツだろう。
「あら、何をしているのかしら? 随分と楽しそうですね」
「いやいやいやいや! 楽しくないですから!? って言うか飛鳥さん起こすの手伝ってくれません? 俺、今体の自由が利かなくって……」
「あらあら、それは大変ですね? それでは――」
「おいおいおいおい! ちょっと待て! いや待って下さい稟香さーーーーーーん!!!」
稟香さんは自分の言いたい事だけ言って、扉を閉めた。扉の向こうから「ごゆっくり」と言う声が聞こえて来たが……助けてくれないのね。
「飛鳥さーん! 起きてー! 頼むから! 俺の世間体に関わる疑問を持ったままの人と大事なお話が有るから起きて下さい!」
俺の朝は、今日もバタバタだった。いつになったら平和に暮らせるんだろう、と半ば無理な疑問を胸に、今日を今日とて過ごしている。早く会いたいなぁ! 階段下りながら鼻歌奏でてるあの人に!