フリードの苦悩
書籍13巻とコミック1巻発売日決定記念です
兄のジークは次期後継者であり、妹はすでにアウラニースに匹敵する戦力となり始めている。
「じゃあ僕は一体どうすればいいんだろう?」
フリードは悩んでいた。
後継者としての立場を確立させた兄、最早偉大な父と義母くらいしか何も言えない妹と比べて、自分は何と平凡な事だろう。
(僕はどうすればいいんだろう)
彼の悩みはかなり深刻だった。
皆は父や兄を補佐し、妹の面倒を見れていればそれでよいと言うのだが、彼自身が納得できない。
自分はどうすればいいのだろうか。
(正直、兄上とそこまで差があるとは思えない……)
彼はそう思いかけて慌てて否定する。
兄とは仲良いし、大好きだ。
その兄を貶すような事を一瞬でも考えてしまった自分が浅ましく、恥ずかしくなってしまう。
悶々とする彼は城にある書物を読みふけった。
そんな彼の様子に気づいたのはネルガルである。
彼女は大好きな父に相談しに行った。
「フリードの様子がおかしい?」
「うん。何かなやんでる感じ。お父様、何とかできる?」
娘の問いにマリウスは真剣な顔をして答える。
「何とかしてやりたいが、俺で解決できる事かな?」
「お父様ならきっとばっちり解決だよ」
信じて疑わない娘の笑顔を重荷に感じつつ、彼はフリードの様子を見に行く。
本を読んでいたフリードは、思いもよらぬ父の登場に目を丸くする。
「父上、どうして……?」
「ネルの奴にお前が悩んでるみたいだから相談に乗ってほしいと言われてね」
「あいつ……」
フリードはネルガルの心遣いを嬉しく思う。
同時にだから自分は妹にも劣っているのだと情けなくなった。
「じ、実は……」
フリードは自分の気持ちを包み隠さず話す。
偉大な父相手に申し訳ないと思うが、偉大な父だからこそ何を言っても恥ずかしくない気がした。
「そうか」
「ご、ごめんなさい。父上。僕だって父上の子供なのに」
「何故謝る?」
マリウスはことさら不思議そうな声を出す。
「何故って……」
フリードは自分の苦悩が分かって貰えないのかとつらそうに表情を歪める。
そんな息子の肩に手を置き、マリウスは優しく言う。
「いいか、フリード。俺は息子が欲しかったんだ。自慢の息子が欲しかったわけじゃないぞ」
「……えっ?」
フリードはきょとんとする。
息子の頭を優しく撫でながら、彼は言う。
「お前はお前でいい。ジークやネルガルと比べる必要はない。元気に育ってくれれば、父さんは満足だ」
「う、うん」
フリードは俯いた。
ゆっくりと父の言葉が心にしみわたっていく。
目から熱いものがこぼれそうだった。
それに気づかないフリをしながらマリウスはさらに話しかける。
「ああ、できれば兄弟仲良く、喧嘩してもちゃんと仲直りしてくれ」
「う、うん……」
フリードの声は涙ぐんでいた。
マリウスは書庫を出ていくと、心配そうなネルガルとジークと出くわす。
「今は一人にしてやってくれ」
「うん」
二人は父の言葉に素直に頷く。
しばらく歩いて外に出てからネルガルが口を開いた。
「ねえ、お父様、何のお話をしていたの?」
ジークが顔で「よせ、やめろ」と言ったが、彼女には伝わらない。
マリウスは笑って教える。
「三人兄弟仲良く、喧嘩しても仲直りしていってほしいと言ったんだ」
「喧嘩なんかしないよ、ねえ、ジーク兄様?」
妹に言われたジークは、自信なさそう目を逸らす。
「お前とはしないけど、フリードとはするかもしれないな」
「え、そうなの?」
ネルはきょとんとする。
彼女はまだアウラニース以外と喧嘩らしい事をした経験がない。
当然と言えば当然なのだが、本人に自覚が足りなかった。
「……もしかしてネル、仲間はずれ?」
彼女は小首をかしげる。
その表情は若干不安そうだったため、マリウスは優しく彼女の髪をなでてやる。
「そうじゃない。ただ、年の離れた妹相手にムキになるような奴らじゃない。つまり二人はネルが可愛いのさ」
「……そうなの?」
ネルはジークを見た。
そんなわけないと彼は思ったが、せっかくの父の心遣いをぶち壊すにするわけにはいかず、少年は葛藤しながらこくりとうなずく。
「わーい」
ネルはたちまち元気を取り戻し、無邪気な笑顔を浮かべる。
連載中の日常ではさえないただのおっさん、本当は地上最強の男も
よろしくお願いします。
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