表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネクストライフ  作者: 相野仁
おまけ・番外編
173/187

ネルガルの特訓

「ネル、特訓をしよう」


 ある日、マリウスは娘にそう提案した。


「……? いいよ」


 ネルガルは不思議そうに首をかしげる。

 だが、すぐに大好きな父と一緒にいられると気づいて承諾した。

 二人はマリウスが創造した特殊空間へと移動する。


「なにをするの?」


 娘の問いかけにマリウスは答えた。


「俺は何もしない。お前が攻撃して来い」


「うん」


 父親の命令にネルガルはよく分からないまま頷き、攻撃をしかける。

 無造作に放たれる圧縮された魔力の弾丸は、魔王となったゾフィすら必死で防ぐか避けなければならないであろう威力を誇った。

 だがしかし、マリウスはどちらもせずまともに食らう。


「ええっ」


 悲鳴を上げたのはネルガルだった。

 父ならばこの程度、余裕で避けるか防ぐと思っていたからこその行動だったのである。

 それがまさか全弾まともに命中するとは。


「お、おとーしゃま?」


 まさか死ぬはずがないと思いつつ、恐る恐る声をかける。


「ネル、次だ」


 マリウスはありありとダメージを受けながらも、力強い声で指示を出した。


「え? え?」


 幼いネルガルには理解ができず、困惑を顔に浮かべる。


「ど、どうして? おとーしゃま、いたいよ?」


「そうだな。だから意味がある」


 マリウスは厳しい顔で言った。


「俺が大きな傷を受けないよう、手加減した攻撃をしてくるんだ」


「え? ええ? ええええっ?」


 ネルガルはたっぷり数秒は経過してから、やっと父の言いたい事を理解し叫ぶ。


「そ、そんなのむりだよー。おとーしゃま、いたいただよ?」


 彼女は早くも半泣きになっていた。

 自分が手加減を苦手としている自覚があるのだろう。


「ネルが手加減を覚えてくれたら大丈夫だ」


「ええー……」


 幼い少女はおどおどと不安そうに周囲を見回す。

 そしてしょぼんと肩を落とした。

 そんな娘に対してマリウスはやさしく声をかける。


「大丈夫。お前はやればできる子だ」


「……で、できなかったら?」


 ネルガルは不安そうに涙をためた目で、父親を見つめた。


「俺が死ぬまでにできればいい」


「そ、そんなのやだー!!!」


 とうとうネルガルは泣き出す。

 マリウスは困って頬をかく。


(いくら何でも性急すぎたか?)


 後悔したものの既に時は遅し。

 最低でも娘を泣き止ませる必要はあった。


「オレ、乱入っ!」


 そこへ何者かが空間の一部を破壊して乱入してくる。

 実のところ何者なのか、改めて記すまでもないだろうがアウラニースであった。


「何だ? オレも混ぜろよ!」


 彼女は空気を読んだのかそれとも無視したのか、とっさに判断しかねる態度をとる。


「てんぺすト・ろあ」


 そんな母親に向かってネルガルは、雷と暴風を伴ったブレスを吐いた。


「ふん、小賢しい!」


 アウラニースは右手で打ち払ってしまう。

 そんな彼女の事を幼い少女は睨みつけた。


「おとーしゃまとふたりきりなんだから、じゃましないで!」


 どうやら彼女には親子三人水入らずという発想はないらしい。


「ぴえぴえ泣いていたくせに生意気を言うな。本当にオレとマリウスの子か?」


「ネルはおとーしゃまのこだもん!」


 ネルガルはムキになって主張する。

 するとアウラニースはニヤリと笑った。


「だったらそれを証明してみろ!」


 成人男性の頭部より一回り大きい、青白く光る雷球を作り出して放つ。

 彼女の得意技の一つ、「ブリューナク」だ。

 ネルガルは涙が乾いていない状態で、それを難なく回避する。


「ふんだっ。ふぃんぶるヴェどる!」


 小さな体からはこの世の全てを凍てつくしそうな、凄まじい冷気が放たれた。

 もしターリアント大陸に命中すれば、そのまま永久凍土へと変えてしまいそうなほどの威力がある。


「は、オレの真似ばかりか?」


 アウラニースはあざ笑うと、それを両手で止めてしまう。


「この程度じゃまだまだオレの足元にも及ばんな」


「うるしゃい!」


 ネルガルはむーっと母を睨む。

 アウラニースはニヤニヤしながらそれを眺めている。

 からかっているのか鍛えているのか、判断に難しいところだ。

 ただ、マリウスに言わせれば「両方」である。


「そこまでにしろ、アウラニース。ネルガルもな」


「むっ」


 彼が制止をかけるとアウラニースは不満そうに唸り、ネルガルは元気よく返事をした。


「はーい」


 そして父親に抱きつく。


「えへへー」


 マリウスは嬉しそうに笑う、無邪気な娘の髪の毛を優しくなでてやる。


「アウラニース相手にやってみるか?」


「うん」


 ネルガルは即答した。

 本当に手加減をできるか怪しいが、やらないよりはマシであろう。

 彼女の父親はそう自分に言い聞かせたのだ。


「お、何だ?」


 アウラニースが疑問を口にする。

 やはりと言うか、よく分かっていないくせに乱入してきたらしい。

 今更なのでマリウスは驚きもせず、説明してやった。


「そろそろネルに手加減ってものを覚えさせようと思ってな」


「ああ、そうだな。弱い者を単に殺すのは二流、生かさず殺さず弱らせるだけにとどめてこそ一流だな」


 最強の魔王はそう納得する。

 聞く者が聞けば卒倒しそうなほど物騒な発言だったが、この場で気にする者はいなかった。


「そうなの、おとーしゃま?」


 二歳の幼女は無邪気に父に尋ねる。


「うん」


 ためらってもいい事はないとマリウスは即答した。


「ねるがてかげんできたら、よろこんでくれる?」


「おう」


 その言葉を聞いた娘は、全身から闘気を立ちのぼらせる。


「じゃあさ、ねるがてかげんできたら、いっしょにねるじかんをふやしてくれる?」


「うん」


 ネルガルの全身から天地が揺らぐような魔力が迸り始めた。


「じゃあ、ねるがてかげんできたら、けっこんしてくれる?」


「それはだめ」


 今度もマリウスは即答する。


「ぶーっ」


 ネルガルは不満そうに唸ったが、それ以上は何も言わなかった。


「おかーさん、はんごろしにしちゃったらごめんね?」


 そして母親に無垢な笑顔でそう話しかける。

 世界は広しと言えども、アウラニース相手にこんな事を言える少女は他にいないだろう。


「はっ、オレの子供ならそれくらいの意気じゃないとな!」


 言われた女は、怒るどころか嬉しそうに両手を打ち鳴らす。

 一秒後、二人の女が激突する。

 空間が激しく振動し、峻烈な光が何度も周囲に満ちた。


「手加減って言葉の意味、教えただろうっ?」


 マリウスは怒鳴りつける。


「うーん、やっているんだけどなー」


 ネルガルは申し訳なさそうな顔をした。


「できているぞ?」


 アウラニースが珍しく娘を擁護する。

 とは言っても、彼女にしては単純に事実を述べただけだった。


「大陸が消し飛ぶ攻撃が、大陸が半壊する程度の攻撃になっている。それなりに進歩はしているだろう」


「そうか。うん、少しは進歩しているなら褒めないとな」


 マリウスは一瞬呆気にとられたが、すぐに我に返って娘を褒める。


「わーい、ほめられた!」


 ネルガルは更にやる気を出し、アウラニースが迎え撃つ。

 一瞬、空間が裂けて外に戦いの余波が漏れてしまったが、マリウスが即座に対処した為に何事も起きなかった。


「本当にできているのか?」


 マリウスは疑問を口にしたが、今度は返事がない。

 両者は戦いに集中している。




 ターリアント大陸のとある場所にて。


「な、何だ? 今の?」


 突然眩しい光の奔流が発生し、半瞬にも満たない間に掻き消える様子を目撃した人間が驚きをあらわにする。


「あの方角はトゥーバン王国だな」


「じゃあネルガル様かアウラニース様あたりか?」


「だろうな」


「なーんだ。またか」


 人々は犯人が分かると何事もなかったかのように暮らしに戻っていく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちら新作になります。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『神速詠唱の最強賢者《マジックマスター》』

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ