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ネクストライフ  作者: 相野仁
おまけ・番外編
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モノ作り勝負

 マリウスはエマといちゃいちゃした後、次の相手にレミカを選んだ。


「は、恥ずかしいです」


 レミカは顔を真っ赤にしながらも、王の要求に応え、膝枕をする。

 ミニスカートだから太ももの感触が直接的に伝わり、マリウスは頬を緩めた。


「うん、膝枕最高」


 マリウスは仰向けになり、レミカの胸の膨らみを間近で眺めながらそんな事を言う。

 完全に調子に乗っている。

 彼らは今、人のいない丘の上で爽やかな風を浴びていた。

 エマの時に人の耳目を集めた事を反省した……訳ではない。

 マリウスは変なところで鈍感力を発揮したのである。

 そんな男がレミカとのデートにこの場所を選んだのは、女の希望であった。


(だって、公衆の面前でいちゃつくとか、恥ずかしくて死んじゃう)


 事の顛末を聞いたレミカは、恐れおののいたのである。

 他にもため息をついた女性、マリウスらしいと苦笑した女性もいたが。

 調子に乗りまくっているマリウスは、レミカを人がいない丘に連れてきてまったりとした時間を過ごすことにしたのだった。

 

「レミカ、あーん」


「あ、あーん」


 マリウスはレミカが作ってきたサンドイッチを彼女に食べさせる。


「陛下、あーん」


「あーん」


 そしてお返しに食べさせてもらう。

 まったりとした時間が流れる。


「みーつーけーたー」


 そこへアウラニースが空から降ってきた。

 マリウス達からやや離れた場所へ綺麗に着地を決める。

 埃が巻き起こらなかったのはさすがと言うべきだろうか。


「マリウスよ、オレは帰ってきた!」


 そう叫んだアウラニースに対して、


「うん。やり直せ」


 マリウスはむすっとして拒否をした。


「何故に!?」


「今デート中だ」


 抗議を一蹴し、マリウスはレミカに「あーん」をねだる。

 侍女は戸惑いながら応じてくれた。


「おいこら、オレの存在をなかった事にするな」


 アウラニースが食い下がってきたのでマリウスは面倒くさそうに、


「お前と遊ぶの、途中で中断してもいいの?」


 と尋ねる。


「む、それはだめだ」


 当然だろうという表情をする。


「じゃあ、今もだめだな」


「む……」


 アウラニースは論破され、しぶしぶ帰って行った。


「い、いいんでしょうか? 後が怖いのでは……?」


「大丈夫だろ、大人しく帰ったくらいだから」


 不安がるレミカを安心させる。

 アウラニースの性格上、本当に気に入らなかった場合、その場で大暴れするはずだ。

 だから安心していいはずである。

 だめだったらエルえもん、と情けない事を考えつつ、レミカの前では強がって見せた。

 ただ、一度白けた空気を元通りにするには容易ではなく、何となくぎこちないまま二人の日は過ぎていく。




「という訳で物作りで勝負だ、アウラニース」


「物作り……?」


 不思議そうな顔をする魔王に手順を説明していく。

 直接戦闘ではなく、自分が創った物を自分で操作しての戦闘とする。

 舞台は二人で協力して用意すればよい。


「ふむ。何を創ってもいいのか?」


 アウラニースは興味の光を帯びて訊いてくる。

 どうやら乗り気になったらしい。


「攻撃は近接のみとし、周囲に迷惑をかけない大きさとする。ダメージを受けたからといって力を注ぎ直すのはなし。こんな感じでどうだ?」


 マリウスの説明を聞いたアウラニースは「ふむふむ」とうなずいていたが、


「面白そうだからそれでいいや。審判はどうする?」


 と言ってきた。


「どっちかが戦闘不能になれば終わりってすれば、必要ない気もするけど。念の為、ソフィアとアイリスに頼むか?」


 この二人ならば、マリウス達の戦いにもある程度はついてこれるだろう、という判断である。


「うん、あの二人なら異論はない」


 アウラニースも信用しているようだった。





 意思や都合を無視して呼び出された二人は、迷惑そうな素振りを見せずに引き受けてくれる。


「アウラニース様ですしね」


 ソフィアは淡々としていたが、アイリスはマリウスに向かって言った。


「何かお前、アウラニース様に似てきたよな」


「ぐはあああ」


 マリウスは胸を抑えて倒れ込む。


「それはどういう意味だコラ」


 アウラニースがアイリスとマリウスを睨むと、二人は目をそらした。


「アイリス、言っていい事と悪い事がありますよ」


 ソフィアがたしなめ、アイリスはバツが悪そうな顔になる。


「それもそうか。悪かったな、マリウス」


「いや、分かってくれたらいいよ」


「だからお前ら、それはどういう意味だコラッ」


 ムキになり始めたアウラニースから、三人は顔を背けた。




 気を取り直して、マリウスとアウラニースは大陸作りから始める。

 

「どんな風にする?」


「とりあえず丈夫な物がいいな」


 相談しあいながら、約十分でターリアント大陸に匹敵する大きさの物を完成させた。


「こんなものだろう」


 アウラニースがそう言いながらぶん殴る。

 激しく揺れたが、地面は陥没する事もなく割れる事もなかった。


「うん、アウラニースのパンチに耐えられるなら大丈夫だな」


 マリウスも満足そうな顔をする。


「む。本気で殴ってもいいか?」


 アウラニースがそんな事を言い出したので、


「勝負はお預けするけどいい?」


 と切り返して黙らせた。

 

「そろそろ始めてもらえませんか」


 迷惑そうなソフィアが先を促す。

 アウラニースは張り切って力を捻出し、白い泥人形を作った。

 大きさは人間大で何の変哲もないように見える。


「それでいいのか?」


「おう。単純なのが一番だ」


 アウラニースはどこか得意げに胸を張った。

 対するマリウスは、まず粘土のような物を作り、それを練り上げていく。

 

「な、何だそれ?」


 出来上がった物を見たアウラニースは驚く。

 マリウスが作ったのは、大きな船だった。

 ただし、足が二本生えているが。


「バトルシップ君だ。遠距離攻撃禁止だから砲撃は出来ないのが玉に瑕だが」


「じゃあそんな物を作るなよ」


 アウラニースが突っ込みを入れるが、マリウスは聞こえないフリをする。


「何を言う。これは男のロマンだぞ」


「オレは女だ。むしろお前以外皆女だ」


 これまたアウラニースが突っ込みを入れ、マリウスは不思議そうな顔になった。


「どうしたんだ、アウラニース。さっきからまともな事を言って。何か変な物でも拾い食いしたのか?」


「さっきから喧嘩を売っているのか、お前は?」


 アウラニースはマリウスを睨みつける。


「全然。何でそんなにカリカリしているんだ? 仲間同士なら、これくらいのやりとりは当然だろう?」


「ぬう?」


 心底不思議そうにされたアウラニースは言い返せなくなった。

 マリウスはそこにたたみかける。


「お前、冗談や軽口を言い合える相手はいなかったのか?」


「……いた記憶がないな」


「じゃあ俺が初めてか。こういうやりとりを楽しんでこそ仲間なんだぞ」


「そういうものか?」


 純真無垢なアウラニースは、悪い人間にまんまと騙されてしまった。


「まあ、オレとお前が仲間である証ならいいか」


 そう納得したのである。

 そして二人の対決が始まった。

 白い人形が、人形とは思えぬダッシュで間合いを潰すと、船の砲台が拳に変わって殴り飛ばす。


「は?」


 ぽかんとするアウラニースに対して、


「白兵戦限定だからな」


 ずれた事を言ってドヤ顔をするマリウス。


(最初から拳を作ればいいのに)


 ソフィアとアイリスは思ったが、彼女達は審判なので声には出さない。

 アウラニースは気を取り直して人形を立たせる。


「今度はそうはいかないぞ」


 ダッシュで間合いを潰したのは同じだったが、今度は下を取った。

 下には攻撃を出来ないと見て取ったのである。


「甘いな。魚雷パンチ」


 下から拳を飛ばし、人形を地面に叩きつけた。


「あれ」


 驚くアウラニースを尻目に「バトルシップ君」は、理不尽なまでに多様な攻撃を見せつけ快勝する。


「俺の勝ち」


 マリウスの宣言を審判達は認めた。


「クソー、変な形に惑わされたー」


 アウラニースは地面を叩きながら悔しがる。


「まあ、あれだな。お前考えたら負けだよな」


 マリウスがそう言うとソフィアとアイリスは頷く。


「むー、確かにな」


 アウラニースも自覚はあるのか、すぐに認める。


「よし、もう一回だ」


 気持ちを切り替えたアウラニースはすかさず再戦を申し込む。

 予想していたマリウスはあっさり応じた。


「いいぞ。次の俺の創るものはこいつだ」


 マリウスは船を変形させ、城を作る。


「な、んだと?」


 アウラニースどころか、アイリスとソフィアも驚いたくらいの精巧な代物であった。


「ふふん、物作り大国ニッポンを舐めんな」


 マリウスは自分以外意味が通じるはずがない事を得意げに言い放って胸を張る。

 完全に調子に乗っていた。


「ぬう、オレだって」


 アウラニースは負けじと城を創り出す。

 しかし、精巧さにおいてマリウスとの差は歴然としていた。


「く、くそー、どうしてこうなった」


 アウラニースは悔しそうに地団駄を踏む。


「お前、人間の城なんて興味ないだろ」


 マリウスの指摘に愕然とした。


「そ、そうだったのか……奥が深い」


 アウラニースはがっくりと肩を落とす。

 何やらずれた方向に話が転がり始めたが、誰も指摘はしない。

 その方が楽だからだろう。


「よし、まずは城作りから教えてやろう」


「うむ、宜しくお願いする」


 こうしてマリウスによる「精密なお城の作り方」講座が始まった。



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こちら新作になります。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『神速詠唱の最強賢者《マジックマスター》』

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