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ネクストライフ  作者: 相野仁
八章「カタストロフ」
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最終話「ネクストライフ」

マリウスが夢の中でナイアーラトテッフと戦っている間、復興準備は進められていた。

 実際に指示出す者達が健在だったのが、不幸中の幸いである。

 

「まだまだ始まったばかりですけどね。ゾフィ達は働いてくれますが、アウラニース達が非協力的で……」


 ロヴィーサが一旦言葉を区切り、何かを期待するような目をした。

 それを見て取ったマリウスが、アウラニースに向いて言葉を発する。


「協力してやってくれ」


「む? オレは壊すのは得意だが、直すのは苦手だぞ」


 自慢にならない事を胸を張って言う女魔王には苦笑させられるが、笑ってばかりもいられない。


「そこはほら、復興の邪魔になるものを壊していくとか」


「それなら私達でやっています」


 横から口を挟んだのはゾフィであり、アルとエルも頷く。

 彼女達の尻尾は、褒めてもらいたそうに動いていた。


「そうか。ありがとう。ゾフィ、アル、エルはいい召喚獣だな」


 マリウスがそうねぎらうと、三人の淫魔は嬉しそうに耳と尻尾を動かす。

 こういう時、名前を省略してはいけないのである。

 一度省略したら、された者達が「不公平」だと拗ねてしまった事があった。


(女って面倒くせえ)


 言葉には出来ないマリウスの本音である。


「少しいいですか?」


 そこで手を挙げて発言許可を求めてきたのはバーラだった。


「どうした?」


「どうせアウラニース達に手伝ってもらうなら、モンスター達の方を何とかしてほしいと思います。住処がなくなったのか、エサがなくなったのかは分かりませんが、人里までやってきて暴れるモンスターが後を絶ちません。ゾフィ達が追い払ってくれていますが、復興の大きな妨げになっています」


 マリウスは目を丸くし、ゾフィに尋ねる。


「そんなに多いのか?」


「はい」


 返ってきたのは即答だった。


「私がいる場所では寄って来ないのですが、私一人では自治領全域を守りきる事が出来なくて……」


 申し訳なさそうな顔をしながら説明する。

 耳と尻尾はしょんぼりしたかのように垂れていた。

 マリウスはアウラニースの方を見る。


「モンスター達の統制をアウラニース達に頼みたい。人間と仲よくやれって」


「ん? あいつらだって生きる為に必死なんだろ」


 アウラニースの反応はそっけない。

 生きる為にあがく、という行為を否定する気はないのだ。


「いや、死ねと言っているんじゃなくて、人間と仲よくしろって言いたいだけなんだが。それとも人間がエサなのか?」


「んー」


 アウラニースは考え込み、そしてソフィアを見る。


「人間を食わなきゃ生きていけない奴っていたっけ?」


「いいえ。人間が好物という輩はいますけど、人間しか食べられないモンスターはいないはずです」


「じゃあいいか」


 アウラニースにしてみれば、生きる為に人間を襲う行為は当然だし、そこまで人間に肩入れするつもりもない。

 しかし、人間を襲わなくても生きていけるならば話は別だ。


「ちょっとシメてやるよ。んで人間を襲わないように言い聞かせればいいんだな?」


 アウラニースは笑いながら両手をポキポキ鳴らす。


「ああ」


 マリウスは頷くとアウラニースは部屋を出て行く。

 綺麗ではなく獰猛といった形容がぴったりで、それを見た者達は思わずモンスターに同情した。


「やりすぎないよう監視してきます」


 ソフィアがそう断って出て行ったのも、もっともだとしか思われなかったくらいである。




「人間にちょっかい出すなら、オレが相手だ!」


 アウラニースのその宣言は、ターリアント大陸の東半分に轟いたという。

 俗に言う「アウラニース宣言」である。

 それを聞いたモンスターは、言った相手がアウラニースだと知り、大混乱に陥った。


「ど、どうするんだよ?」


「こっそり襲うか?」


「ばれたら殺されるぞ」


 アウラニースの事は、多くのモンスターが知っている。

 最強の魔王であり、理解不能の災厄であると。

 彼らにしてみれば、アウラニースを敵に回してまで人間を襲う価値などない。

 しかし、全てのモンスターがそう思ったわけではなかった。


「アウラニースは弱い者いじめはしないんだろう? いいのかよ?」


 そう言い放った者がいる。

 ひっそりと生き残っていた魔人だ。

 そんな魔人の言葉をアウラニースは鼻先で笑い飛ばす。


「確かにオレは弱い者いじめをした覚えはない」


 だがと続ける。


「虫けらを踏まぬように避けた事もない」


 つまり自分の意に反する虫けらは踏み潰すと宣言したのだ。


「アウラニースがなんぼのもんじゃあ!」


 一人の魔人がそう叫び飛び出すと、それに続く魔人が数人いる。

 彼らは他の大陸から移ってきた、アウラニースを見た事がない者達であり、それ故の無謀さであった。

 アウラニースはそれを見ても迎え撃つ姿勢を取らない。


「ああ?」


 ただ殺気を込めて睨んだだけである。

 

「ひっ」


 それだけで魔人達は突進を止め、足元から崩れた。


「あばばば」


 更には全身を震わせ、涙と糞尿を垂れ流して気絶してしまう。

 それを見ていた他のモンスター達も、魔人達の無様さを笑わなかった。

 アウラニースの殺気に当てられ、気絶する者が続出し、笑うどころではなかったのである。


「お前らごときがオレに盾突こうなんて、五千万年早いぞ」


「は、はいぃぃ」


 数少ない、気絶しなかった者達は、必死で首を縦に振る。

 彼らも目に涙を浮かべ、糞尿を垂れ流していたが、そんな事はどうでもよかった。

 とにかくアウラニースの怒りを解きたい一心だったのである。


「他の奴らにも伝えろよ。オレの言う事を聞かない奴は、オレ直々に殺しに行くってな」


「は、はいぃぃぃ」


 こうして悲劇は回避された。

 ただ、悪臭が周囲一帯に立ち込めると言う別の悲劇が起こったのだが、


「アウラニースが怒ったのに、臭いだけですんでよかったじゃないか」


 マリウスがそう言うと誰も反論出来なかったのである。

 一歩間違うと大陸存亡の危機なのは、皆が理解していたのだから。

 ただ、マリウスに宛てて「アウラニースをちゃんと首輪でつないで下さい」という嘆願が殺到したのも事実だった。

 

「暴れなくなっただけでも進歩じゃないか。なあ?」


 マリウスの言葉にソフィアとアイリスが頷く。


「今までなら、大陸の何割かが消し飛んでいましたね」


「アウラニース様は、我慢を覚えたな」


「何だか納得がいかないぞ!?」


 褒められると思っていたアウラニースは、褒められた気がしないとむくれる。

 マリウスはアウラニースに近づき、髪を優しく撫でた。


「いや、我慢してくれてありがとう。お前のおかげで助かるよ」


 そう微笑みかける。


「お、おう。分かればいいんだ、分かれば」


 アウラニースは頬を赤らめ、小声でごにょごにょと返答した。


「マリウスって女たらしなんですね」


「そうだな。女たらしだから、ハーレムを上手く掌握しているんだろう」


「何でそうなった!?」


 マリウスは叫ぶ。

 むろん二人はからかっているのであり、マリウスもその事は分かっていた。




 マリウスが起きた事でターリアント大陸の復興は急速に進み始めた。

 その原因は、


「いやあ、神を倒したら神の力が手に入っちゃったみたいで」


 などというトゥーバン自治領の主人である。

 まだ不慣れで制御難があるものの、神の力を使えば大陸全体に好影響を及ぼす事が出来た。


「これが神の力か……」


 ティンダロスが滅んだ時、一気に影響が消えたのも分かる気がする。

 理屈的なものではなく感覚的なものだったが。

 マリウスが神の力を手に入れたと知った人間達は、もう何もかも諦めたような表情で応じた。

 もっとも例外的に


「神と戦えるのか! それは楽しみだな!」


 と嬉しそうに両目を輝かせた者もいる。

 その名をアウラニースと言うのは、多分全人類が分かった事だろう。

 最強最悪、災厄の魔王という呼称で知られたアウラニースだったが、恐怖にまみれた伝説はマリウスと知り合った事で終焉を迎える。

 

「意外と話が分かる」


「強い奴と戦えれば満足するらしい」


「実は綺麗好きで、掃除をまめにやっている」


 といった情報が流れ始めたのだ。

 出所がトゥーバン自治領だったので宣伝工作ではという声も大きかったのだが、アウラニース本人がそれが事実だと証明していく事になる。


「戦ったら面白い相手がいれば、それで満足するらしいな」


 という評価が一つの結論になった。

 アウラニースがマリウスと共に、邪神ティンダロスと戦った事は大きい。

 おかげで彼女が邪神の先兵であるという事は否定されたのだ。

 そればかりかマリウスの頼みで、魔を統制し人類との共存を強要したのである。

 むろん、アウラニースへの恐怖のみでの共存だから、問題が山積みだ。

 しかしそれでも、神の呪縛から解き放たれた世界は、共存へと動き始めたのである。


 


 邪神討伐から二年後、トゥーバン自治領はトゥーバン王国と名を改めた。

 そしてマリウスが初代国王に即位する。

 「邪神を討った帝王」と呼ばれる人類最強の王マリウスの他、最強の魔王アウラニース、魔王に匹敵するソフィア、アイリス、ゾフィを擁する、人類史上最強国家の誕生であった。

 だが、初代国王の人柄を反映してか、トゥーバン王国は決して侵略行為を行わなかった。

 ターリアント大陸から戦争を追放した、平和の象徴的存在となったのである。


「王様ー」


 マリウスが外を歩くと子供達が笑顔で手を振り、大人達が嬉しそうにお辞儀をしてくれる。

 晴れ渡った空を見ると赤い太陽が元気に大地を照らしていた。

 ナイアーラトテッフの力は消滅したわけではないのに、青い太陽は昇って来ない。

 月も一つになり、マリウスが慣れ親しんだ形になった。

 最初は怯えた人々も今では落ち着きを取り戻している。

 それがマリウスへの信頼の証だと、自覚しているし責任も感じていた。


(頑張っていかないとなぁ)

 

 マリウスは彼らしくのほほんと決意を固めている。

 後の世において、人魔共存の時代(ネクストライフ)と呼ばれる事になるこの時代は、まだ幕を開けたばかりなのだから。


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こちら新作になります。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『神速詠唱の最強賢者《マジックマスター》』

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