第7話
「小説家になろう」投稿一周年記念作品
そのころ翠はフードの付いた黒マントに身を包み自分の部屋で大きな鍋を前に怪しげな料理本を片手にこれまた怪しい料理に勤しんでいた。
「これで彼はいちころよ」
料理の素材はどこから集めてきたのか闇鍋以上の恐ろしいものだ。どうやら翠はあの男子生徒が自分に気が向くよう惚れ薬を作っている。なんとも姑息な手だ。
「悪魔様、我に力を与えたまえ!」
最後に翠はエッセンスである隠し味?の幻の花の花びらをまぶした。
ボンッ!
鍋から大きな煙が立ち上がった。その煙が薄れるころ鍋の向こうに男子生徒が立っていた。
「えっ、なんで」
翠の目が見開きボー然としている。その割には頬が赤らんでいた。
「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃぁーん」
男子生徒はすまし顔でくだらないことを言った。
「どうしてこんなせまっくるしい部屋にいるんですか?」
翠の見開いた目はハートマークだった。
「君が此処に呼んだんじゃないか」
男子生徒の頭に角が生えた。
「悪魔様!わたしそんなつもりじゃなかったんですけど・・・。ごめんなさい、散らかってて・・・。まだ貰ったハンカチ洗濯してないんです」
翠はふらふらとその男子生徒・・、悪魔様に寄り添っていった。
「ハンカチは貸しただけだよ。それより僕たちの出会いは運命的だよ」
悪魔様は翠を抱き寄せ甘くささやいた。
「ごめんなさい。こんな格好で・・、おはずかしい・・」
翠のハートはオーバーヒートして顔は真っ赤になっている。
《私って変な女の子?別の世界の人に恋をするなんて。みんなはどう思うかしら・・。余計な噂が広まっていくわ。だけど私の恋はそこまでのもの!?恋愛に国境はないはず、ましてや別の世界の人だっていいじゃない!苦難はなんだって付きものよ。いいわ・・この際、私も乗り越えて見せるわ!なんてロマンチックなのー。ロマンチック・・・、そうよ今が告白するチャンスよ!一番乗りは私よ!》
翠は自分に言い聞かせた。
「あの私、最初に会ったときからあなたのこと・・」
「ちょっと待ったー!!」
「翠!あなたって子は!!」
部屋のドアが大きく開き、沙織,由香,綾乃が乗り込んできた。その後ろには翠の母親がなげき立ちすくんでいる。
翠は大きな熊のぬいぐるみを力いっぱい抱え込んでいた。
「なにやってんの、あんた・・」
沙織がなんともいえない表情で言った。
「えっ!これは・・ちょっと・・」
翠はしどろもどろだ。
「なにか抜け駆けしようとしていた形跡があるんだけど・・・」
由香はトカゲの尻尾を持って気だるく言った。
「これはどうやら黒魔術ですね」
綾乃が羊のお面を被った。
後ろで崩れ落ちる音がした。
「おばさん、大丈夫!」
沙織が抱きかかえた。翠の母親は気絶している。
「あ~ぁ、親を泣かせちゃいけません」
綾乃がお面を取りふくれた。
「なによ!私なりのストレス解消よ!」
翠は熊を抱きかかえたまま跳ね返した。
「ところでまだ、何やってんのよ」
由香がトカゲの尻尾をくわえ、するめの様にしがんでいる。
「これは・・、何でもないわよ!」
翠は熊を放り出した。
「原因はこれのようですね」
綾乃が幻の花に目を向け言った。
「マンドラゴラの花。人に幻覚をもたらす危険な花です」
「それで園芸部の温室から引きずっていままで勝手に妄想繰り広げてたの」
沙織が気絶している翠の母親に毛布をかけた。
「失礼ね!甘いスィーツな夢の中よ。その私の夢をあなたたちが振り起したのよ!」
翠は黒マントを脱いでベッドにほった。頭にはまだ幸福のクローバーを飾っている。
「妄想でも夢のなかでも抜け駆けはだめよ!この世の平和を守るため幸福のクローバーはいただくわ!」
三人は翠の頭に翳された幸福のクローバーを目にした途端、翠に飛び掛っていった。
「どういう意味よ!」
三人は戦隊ものになりきっていたのだ。
「僕らの恋のため戦うんだ!」
突然、後ろから翠の肩を抱き耳元で悪魔様がささやいた。
「あ、悪魔様~」
部屋にまだ幻覚効果が残っていたらしい。翠も戦隊ものの世界に参加していった。恐るべしマンドラゴラの花。
全11話。一日おきの更新。