第5話
「小説家になろう」投稿一周年記念作品
園芸部、温室・・。
翠は全速力で温室の中に入ってきた。
「あったー!、これこそ四葉のクローバーより幻の花よ!」
翠は真正面に置かれている植木鉢に植えられた鈍く光る花を担ぎ上げた。
「君は誰?」
偶然、温室にいた男子生徒が翠に声を掛けてきた。
「えっ、」
翠は咄嗟に振り返った。
《タイプ・・!》
「ちょっと・・、君・・。全身ずぶぬれだよ・・・」
男子生徒は翠の姿を見て言った。翠は全速力で走ってきて室温の高い温室に飛び込んだため、あふれんばかりの汗で制服までびちょびちょだった。
「わたし・・・、あのー・・・」
翠はどぎまぎしている。
「早く着替えないと風邪ひくよ。とりあえずタオルもってくるから・・」
「わたし・・・、あの、この花を・・・」
翠が途切れ途切れ話し出している間、男子生徒は背を向け戸棚からタオルを探している。
「あのー・・・、わたし、この花・・」
「タオル見つからないから、これ使って」
男子生徒が自分のハンカチを手渡した。翠の頬がピンク色になった。
「ところで君・・・が、担いでいる花・・・これからどうするの?」
男子生徒が問いかけたが翠は上の空だ。
【ところで君、これからどうするの?】
「もう少し傍にいてください」
翠は妄想に耽っている。
「はっ、?・・。いや・・、僕も君が、・・・担いでいるその花・・・好きなんだよ」
男子生徒はたじろぎながら言った。
【僕も君が、好きなんだよ】
「あっ、わたしも好きなんです!」
翠の口から思わず気持ちが出てしまった。どうやら男子生徒の言った言葉を自分なりに解釈して、都合のいいところだけ聞いて後は伐採しているようだ。
「えっ!この花気に入ってくれたんだ。実は今朝、やけにテンションの高い女の子からもらったんだけど・・。いいよ、君にあげる」
男子生徒はやさしく微笑んだ。それがまた翠に刺激を与えた。
「あ、・・ありがとう・・」
「ところで君は・・・」
「どの女の子がタイプですか!?」
翠は男子生徒の問いかけを聞かず逆に問いかけた。
「えぇっ・・。そうだなぁ、古風でつつましやく、おひとやかで、それでいてあと趣味で黒魔術をしているひとかな・・」
《わたしピッタリ!》
「どうもありがとう。ハンカチ洗濯して返します」
翠はちょこんとお辞儀をした。
男子生徒はさわやかな笑顔で答えた。
「そうだ、君と出会えた記念にこれもあげるよ」
「えっ・・」
男子生徒が花壇からなにやら持ってきた。
「はい、幸福を呼ぶ四葉のクローバー」
男子生徒は大きな四つの葉をつけたクローバーを翠の頭に髪飾りにしてつけてやった。
そのとき翠の心は翼を広げ天に昇っていった。
その日の放課後・・。
教室の片隅で翠を囲んで頭に飾られたその幸福のクローバーを目に三人が話しに花を咲かせていた。
「なんてすばらしい!!こんなに早く手に入るなんて!」
沙織が喜んだ。
「昨日の夜に山に行った意味無いじゃん」
由香が頭を抱え気だるく言った。
「成果はあったはずよ。旬の味覚は味わったんだし・・」
綾乃が満足そうに言った。
「わたしは食べてない」
沙織が二人に向かって舌を出した。
「しかしあるところにはあるものねぇ。ほかにもたくさんあったんでしょ。そんな大きいのが!」
沙織が翠の頭に翳したクローバーを指し言った。他の二人も一緒に指を指した。
「はぁ~」
翠はタオルを握り締めポカーンとしている。
「あぁあ、のぼせているわぁ」
沙織が首をかしげた。
「しかし園芸部がクローバーを栽培してたなんて考えもしなかったわ。それもおまけに部長が翠のタイプだなんて!」
沙織は翠の抜け殻になった顔をまじまじと見た。
「なんで部長って分かるのよ!」
由香がクローバーを見つめたまま気だるく聞いてきた。
「クローバーくれたからよ!」
沙織は訳の分からない返答をした。
「だけど何組の誰って名前も聞かなかったんでしょ!それにまだ、翠の一目ぼれの状態よ。これをどう相手に告白して成立させるかよ」
「ロマンチックにね!」
綾乃の言葉に沙織がかぶせた。
「ハクシュッン!!」
翠が鼻水を垂らした。
「翠、大丈夫。まだ制服が湿ったままだから風邪引いた?」
綾乃が心配そうになった。
「大丈夫!大丈夫」
沙織が代わりに答えた。
「そうよね恋愛って、相手の気持ちそっちのけで勘違いから始まっちゃうもの」
由香が肘を突いて気だるく哲学を語った。
「ちょっとまって、ちょっとまって!これってわたしたちより先に翠に一歩リードされているのよ!翠が告白でもしたら男なんて直ぐにOKするに決まってんじゃない。男って頭んなかHの事だけなんだから!」
沙織が思い出したかのように急に慌てた。
「あんたはどうなのよ。一緒でしょ」
由香は肘を突いたまま視線だけを沙織に向けた。
「そうよ!わたしたちも幸福のクローバーもらいに行きましょ。ついでに部長の顔も拝みましょ」
沙織が立ち上がった。
「わたしもう、帰るわ・・・」
翠がハンカチを握り締めたまま鞄と幻の花を持ち、ふらふらと教室を出て行った。
「お大事に~」
三人は頭を下げた。
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