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第10話

「小説家になろう」投稿一周年記念作品

裏門・・。


三人は裏門まで走っていき、閉まっている門をよじ登っていった。

「わぉー!」

よじ登った門からでも見上げるほど、そのもみの木は大きな大木でどっしりと腰を構えていた。

「でかすぎるっ!!」

沙織は思わず声が出た。

「やっ!やばいっ!!」

由香も綾乃もあっけにとられた。

「ちょっと、さっき言った言葉に不安を感じているんじゃないでしょうね!」

横から由香が沙織に聞いてきた。

「なに言っているのよ。ただびっくりしただけだよね?」

またその横からおどおどとした綾乃の小さな声がした。

「はははっ・・・、まぁねぇ・・・」

沙織から嫌な汗があふれ出した。

「わたしも一緒に助けるわよ!」

よじ登った門の下から大きな翠の声が聞こえた。

「あなた達、パンツ丸見えよ!恥ずかしい!」

三人は後ろを振り向き下を見下ろした。そこには戦隊もののコスプレの格好をした翠が誇らしげに立っていた。

「あの格好で此処まで来たのかしら・・・?」

沙織がつぶやいた。他の二人も動かぬまま唖然としている。

「今日、学校休むって言ってたんじゃない~」

綾乃が滅多にない大きな声で聞いた。

「これに着替えたら元気になったのよ~」

翠がいつもより大きな声で返事をした。

「そんなに遠く離れてないだろ!」

沙織が二人に怒鳴った。

次に翠はどこから持ってきたのかはしごを伸ばし上ってきた。

「さぁ!屋上に行くわよ!」

翠が三人に威勢良く言った。

「それからどうするのよ?」

沙織は翠のしている格好には触れず問いかけた。

「決まっているじゃない。屋上から降下して彼女を助けるのよ!」


屋上・・。


屋上まで駆け上がってきた四人はまたあっけにとられた。もみの木のてっぺんが目の前にあったのだ。翠は柵まで走って行きはしごをかけた。

「さぁ、救出作戦開始よ!」

翠が振り向き後ろで唖然と立ち尽くしている三人に言った。

「よくまぁ、ここまで一夜で育ったわね」

沙織が感心した。

「ところでどうして妙子は枝にしがみ付いてるのか聞いてないわね?」

由香が一心にもみの木を見たまま気だるく言った。

「理科研究部との共同実験の薬品の調合ミスで突然もみの木が急成長を始めて温室を突き破ったんだって。そして咄嗟に大きくなった枝に飛びついたらしいよ」

「へぇ~、そうなんだ~」

綾乃も口を開けたままもみの木に集中している。

「ちょっと!あなた達聞いてんの!」

翠が三人のところまで歩いてきた。

「実際、そのコスプレ寒いんでしょ。震えてるじゃない」

沙織がおもむろに翠に視線を変えた。翠は体を抱え歯がカタカタ音をたてている。

「で、・・・。どうやって助けるのよ」

由香もまた翠に視線を変え気だるく言った。

「これよ!」

翠は颯爽と黒の垂幕を三人に見せた。

「講堂からちょっと拝借してきたのよ!」

「それでどうするの?」

綾乃もようやく翠に視線を変えた。

「四つの端を一人ずつ持って、パラシュートの様に彼女のところまで降下するのよ!」

翠は自信ありげに言った。

「そんなマンガじゃあるまいし・・」

沙織は顔の筋肉の力が抜けた。

「この方角だと間違いないわ」

翠はまだ懲りずに人差し指をなめ風向きを確かめた。

「その確信はどこから来てるのよ!」

沙織は止め処と無く聞いた。


「さぁ!行くわよ!!せーの!」

四人は垂幕の端を一人ずつ持って屋上の柵を越えた。そして一斉に飛び出し急降下した。

※よい子のみんなは真似をしないでね※

しかし、下からの上昇気流が噴きあがりはるか遠くへ飛ばされた。高い空から彼女たちが目にした光景は、妙子がはしご車から手を伸ばす救助隊に助けられていた。

全11話。一日おきの更新。

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