奇行の理由のおはなし
瑠々は、得意の大真面目で雑誌を食い入るように読んでいた。部屋の真ん中のローテーブルに雑誌を置き、時に頷きながら、時に驚いて軽く身を引いたり、とにかく真剣そのものだった。
「そ、そんな効果があるの……?」
何のテーマなのか、瑠々の顔は真っ赤である。すると瑠々は、自身の右耳を塞いで
「あーいーうーえーおー」
と言って首を傾げた。どうやら、何かを試しているようだ。次は左耳を塞ぎ、また
「あーいーうーえーおー」
と言ってまた首を傾げた。どうやら、思った成果は得られなかったようだ。むんっ、と唇を突き出し眉を寄せて
「うーん。よく分かんない」
伸びをしながら一言呟き、雑誌の次のページを開こうとした時
「なにが分からないの?」
「セ、セツくん!?」
――バタンッ!
いきなり後ろから刹那の声がして驚いた瑠々は、思いっきり雑誌を閉じてしまった。思ったより勢いが音に表れてしまい、少し気まずい雰囲気になってしまった。これでは、何か悪いことをしてしまったようではないかと、瑠々が頭の中で器用に頭を抱えた結果
「の、飲み物とってくるね!」
「ん?瑠々?」
とりあえず、部屋から退散することにした。リビングで紅茶を用意している時、瑠々は自室のテーブルの上に置いてきてしまった雑誌を思い出して涙が出そうになった。あんな雑誌のテーマを真剣に読んでいたなんて、知られてしまったらただの変態ではないか。セツくんが雑誌なんて気にしていませんように。と祈りながら部屋のドアを開けると、意外にも刹那はスマホを触っていて雑誌はセーフのようだ。瑠々の心のクラッカーが鳴る音がした。
「おまたせ、セツくん」
「ありがとう、瑠々」
雑誌をその場の流れに逆らわないように、さり気なく片付けて瑠々はこっそり安堵の息を吐いた。
「あ、そうだ、セツくん。お母さんがくれた映画の招待券があるんだ、け、ど……」
振り返った瑠々の声が、段々と小さくなっていく。近い。ど近い。一気に部屋の空気に緊張してしまう。瑠々を見つめて微笑みながら続きを促す刹那の、なんとイケメンなことか。
「そうなんだ、恋愛もの?」
「う、うん!お母さん、大きなスクリーンで見る恋愛ものは苦手だから!変わってるよね!」
胸のきゅんがバレないようにそっと胸を抑えながら、この甘い空気を変えようと明るく振る舞ってみたが何の効果もなく、刹那は瑠々にもっと近付いていく。あ、これ、キスしてもらえる……と覚悟を決めた瑠々はそっと瞳を閉じてみる。
「だから、こういうことして欲しいの?」
「へ?あ、んんっ」
ふっと柔らかく微笑み、刹那は瑠々の両耳を塞いでキスをした。一瞬重なった唇が離れるのを寂しいと思う前に、また刹那が優しいキスをする。
なんだあ、耳を塞いでキスしても、いつも通りなんだ。と、三度目のキスを受け入れていると、刹那が舌で唇に触れてくる。深い口付けにまだまだ慣れない瑠々が、驚いて思わず引こうとするが刹那はそれを許さなかった。「ちょっとストップ」と言いたくて口を開くと、刹那の狙い通りに口付けは深く甘いものになっていく。舌と舌が重なった瞬間、瑠々の身体がびくっと震える。
――くちゅ、ちゅっ、
いつもよりダイレクトに伝わってくる音に反応する瑠々は、素直に全身で感じてしまう。どちらのものか分からない唾液が溢れて顎を伝うと、気持ちも感度も盛り上げられた瑠々は、それでさえも勿体ないと思い刹那の首に腕を回してぐっと更に近く近くと求める。悩ましい吐息と熱い舌先で二人は求めあい、呼吸もムードも限界を迎えて唇をようやく離すと、最後に刹那が軽くキスをした。離れがたいのだろう、二人はしばらく息を整えながら見つめあう。
「雑誌、やっぱり見ちゃったの?」
へにょん、と困ったように眉を下げて瑠々が聞くと、刹那はふふっと笑って「ごめんね」と言ったので、瑠々は穴があったら入りたくなる。
「いやだった?」
「ず、ずるい……!」
「でも、自分じゃ分からなかったんだよね?」
「えっ、あ、あれも見てたの?!」
「最初は分からなかったけど、何か可愛かったから」
「うそぉ……」
この話の冒頭で行っていた、あんな瑠々の奇行を、大好きな人に見られていたのかと思うと頭が痛かった。でももう一度軽くキスをしてきた刹那が「怒った?」と聞いてきたので、瑠々は刹那の肩にぐりぐりと頭を押し付ける。優しく頭を撫でられ、ちらりと上目で刹那を見て目が合うと
「気持ちよかったでしょ?」
と、悪戯っぽい笑みで甘く囁いていきた刹那に、瑠々は返す言葉が見当たらず、顔を真っ赤にして項垂れることしか出来なかった。今年も、このイケメンはずるいし敵わないことを、新年早々悟った瑠々だった。




