表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/25

第9話 風の調べ

第9話です。

シン=アルバートと聖女エリシアが初めて共に戦う章。

風と祈り、理性と信仰――二人の“調和”が初めて形になります。

静かな戦闘と、心の共鳴をお楽しみください。

城下を抜けた先に、古い神殿跡があった。

石造りの柱が風に削られ、草が根を張り、

長い時の流れを静かに刻んでいる。


聖女エリシアの白い衣が、淡い光を反射して揺れた。

「この場所で、また風の異変が起きています。」


「風が“歌っている”ような音ですね。」

シン=アルバートは耳を澄ませた。

確かに、どこからか旋律のような低い音が響いている。

風が重なり、渦を描き、やがて空気を震わせていた。


「これが……“風の調べ”と呼ばれる現象です。」

エリシアの瞳が真剣に揺れる。

「本来は神に捧げる祝福の風。しかし今は、誰かが歪めて使っている。」


「なるほど、上司が勝手に書き換えた企画書みたいなもんですね。」

「企画書?」

「つまり、本来の目的を忘れて、自分の都合で動かしてるってことです。」


エリシアは一瞬戸惑ったが、すぐに微笑んだ。

「例えが……とても人間らしいですね。」

「褒め言葉と受け取っておきます。」


二人が神殿跡の中央に近づくと、

風が急に鋭くなり、砂が渦を巻いた。


「来ます!」


光の筋の中から、音をまとった黒い影が現れた。

形は人にも獣にも似ていない。

ただ、風そのものが怒りに変わった存在――“風の残響体”。


「風が……怒っている。」

エリシアの声が震えた。

「抑えられません、私の祈りが届かない!」


「だったら合わせましょう。」

「え……?」


シンは左手を差し出した。

「俺の風と、あなたの祈りを一緒に乗せる。

 理屈じゃなく、感覚でいい。」


エリシアはためらいながらも、その手を取った。

冷たい風が二人の間を通り抜け、

一瞬、世界の音が消える。


――そして、響いた。


風が“音”になった。

笛と祈りが混ざり合い、旋律が空を包む。

それは怒りではなく、穏やかで温かい風。


「これは……歌?」

「風の記憶を“上書き”してるんです。」


光の影が揺れ、やがて形を崩した。

渦が解け、風が静かに広がっていく。


エリシアの頬を涙が伝う。

「……風が、微笑んでいます。」

「怒っていた風ほど、優しくなるもんですよ。」


「あなた、本当に不思議な方ですね。」

「よく言われます。前の世界でも。」


二人は並んで立ち、風に包まれながら空を見上げた。

夕陽が差し込み、神殿跡の柱が金色に輝く。


「これでまた、ひとつ風が自由になりましたね。」

「ええ。でも、まだ歌は終わっていません。」


「どういう意味です?」

「この“風の調べ”には、第二の旋律が隠されています。

 次は、北の王国――“ガルディア”で吹く風です。」


「……また出張か。休暇申請が追いつかないな。」

「休暇?」

「まぁ、仕事みたいなもんですよ。」


エリシアが小さく笑う。

その笑顔は、これまでより少し柔らかかった。


「あなたの言葉、少しずつ分かるようになってきました。」

「風が通じたんですよ。」


二人の視線が交わる。

その瞬間、柔らかな風が二人の周囲を包み、

どこかで笛の音が響いた。


それはまるで、

“信頼”という名の新しい風の調べだった。


お読みいただきありがとうございます。

第9話「風の調べ」では、初めての“共闘”と“風の共鳴”が描かれました。

この回を境に、二人の信頼関係が物語の核となっていきます。

次回、第10話「ガルディアへの風」――

北方の王国、そして新たな仲間との出会いが待っています。

ブックマーク・評価・感想で、あなたの風を吹かせてください!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ