第7話 風の残響
第7話です。
初めての戦いの後、シン=アルバートが“聖女エリシア”と出会います。
ここから、物語は“風”と“信仰”、そして“人の思惑”が交錯していきます。
どうぞごゆっくりお読みください。
北の丘での異常気流を鎮めてから二日後。
ルシエルの街に戻ったシン=アルバートは、
ギルドの木製扉を押し開けた。
中はいつもより騒がしい。
冒険者たちが口々に話している。
「おい聞いたか? 北の丘の暴風が消えたらしい!」
「まじかよ、あれ何ヶ月も止まらなかったんだぞ。」
「誰がやったんだ?」
「さぁな。神か、風の精霊かって噂だ。」
――風の精霊、ね。
シンは苦笑しながらカウンターに歩み寄った。
受付長ハロルドが顔を上げ、目を見開く。
「おいおい……本当に生きて帰ってきやがったか。」
「依頼は完了です。風の異常は止めました。」
「……マジでか。」
ハロルドは呆れたように笑い、肩をすくめた。
「お前、初仕事であの依頼片づけたのか。
普通は三組行って三組とも帰らねぇやつだぞ。」
「運が良かっただけですよ。」
「そういう奴が一番危ねぇんだ。」
ハロルドは報酬袋を差し出した。
中には銀貨数枚と、金色の札が一枚。
「依頼達成報酬に加えて、上からの推薦状だ。
“風の異常を止めた者”として名が挙がってる。」
「推薦状?」
「ああ。聖堂騎士団からの招待だ。お偉方が直接会いたいらしい。」
シンは眉をひそめた。
「宗教関係か……風が神様の管轄ってことか。」
「知らねぇけど、断るなら今のうちだぞ。
聖堂は一度入ったら、いろいろ“風通し”悪いからな。」
「……そういう職場、慣れてます。」
「だろうな。」
二人は同時に笑った。
⸻
翌日、シンは白い尖塔がそびえる聖堂を訪れた。
大理石の床、色ガラスの窓。
空気は静かで、どこか張り詰めている。
「シン=アルバート様ですね。」
修道服を着た若い神官が深く頭を下げた。
「こちらへどうぞ。聖女殿がお待ちです。」
「……聖女?」
廊下を進むと、光が差し込む広間にひとりの女性が立っていた。
白銀の髪に薄い青の瞳。
その姿はまるで、風そのものの化身のようだった。
「あなたが……あの風を鎮めた方、ですか?」
澄んだ声。
シンは自然と姿勢を正した。
「たまたま、風が静まりたかっただけですよ。」
「いいえ。風はあなたに応えたのです。」
彼女――聖女エリシアは静かに微笑んだ。
「この国の風は、長い間苦しんでいました。
でも、あなたがそれを“導いた”のです。」
「導いた……?」
「はい。あなたの中に、風の意志がある。」
その言葉に、シンの胸が僅かにざわめいた。
確かに感じた。
あの時、風はただの力ではなく“意思”を持っていた。
「……聖女様。俺はただの旅人ですよ。」
「ええ、けれど風は、偶然の旅人を選ぶことがあります。」
エリシアはゆっくりと近づき、
彼の胸元の笛に視線を向けた。
「その笛、風の響きが宿っていますね。」
「村の老人にもらったものです。
風を鎮める時、勝手に鳴り出しました。」
聖女はそっと手を伸ばした。
笛に触れると、かすかに風が流れ、
二人の間の髪が揺れた。
「……優しい風。」
「たぶん、俺の上司よりはずっと素直ですね。」
エリシアは小さく吹き出した。
「ふふ、あなた、面白い方ですね。」
その笑顔に、シンは少しだけ目を逸らした。
どこか、心がざわつく。
「今後も、この国で起こる風の異変を調べてほしいのです。」
「俺に、ですか?」
「はい。あなたしか、風と対話できないから。」
一瞬、返事をためらった。
だが――風が、彼の背を押した。
「……わかりました。ただし、報酬はきっちりお願いします。」
「もちろんです。」
エリシアが微笑むと、
窓から吹き込んだ風が、彼女の髪を揺らした。
その光景は、美しく、どこか懐かしい。
「……風通しのいい職場なら、続けられそうです。」
「ええ、そうであるように、祈ります。」
彼女の祈りの声に、風が小さく応えた。
まるで――二人の出会いを祝福するように。
お読みいただきありがとうございます。
第7話「風の残響」では、聖女エリシアが初登場しました。
彼女はシンの旅路において、最も重要な存在の一人です。
次回、第8話「聖女の願い」――
静かに動き出す風の陰で、国家の思惑が見え始めます。
ブックマーク・感想・評価で、あなたの“風”を吹かせてください!




