第6話 風の丘
第6話です。
いよいよシン=アルバートの“初戦”が描かれます。
ただの力押しではなく、風を読み、導く戦い――
彼らしい知略戦を楽しんでください。
街を離れ、北へ半日の道のり。
そこは風の丘――かつては旅人が休む穏やかな草原だった。
だが今は、草が渦を巻き、石が宙に浮いていた。
「……見事な暴風だな。」
地面に踏み出すたびに、靴底が砂を滑らせる。
風の流れが乱れ、空気そのものが唸っていた。
「原因調査……って言っても、この状況じゃ近づけねぇな。」
シン=アルバートは風を読み取るように目を細めた。
空気の向き、圧、温度差――
自然現象ではない。風が“命令”を受けたように動いている。
「誰かが……操ってるな。」
その時、耳に低い唸りが響いた。
草の中から、風に紛れて黒い影が飛び出す。
「……魔獣か。」
獣は狼に似ていた。
ただし、身体の周囲に常に風がまとわりつき、
まるで“風そのもの”が生きているように動いていた。
「ウィンドウルフ……ってところか。」
一匹、二匹、三匹。
シンの周囲を囲むように現れる。
牙をむき出し、低く唸る声。
「よし……試運転だ。」
彼はゆっくりと右手を上げた。
風が静まり、空気が彼に集まる。
まるで“風そのものが主を見つけた”ように。
次の瞬間、指先を弾く。
――バシュッ!
圧縮された空気が弾け、狼の一匹が吹き飛んだ。
風が爆ぜ、土が舞い上がる。
「……うん、威力は十分。ただ、静音性ゼロだな。」
残り二匹が同時に飛びかかってくる。
シンは風を掌で撫でた。
「回れ。」
その一言に、風が渦を描く。
狼たちの動きが一瞬止まり、
次の瞬間には逆流した突風に巻き上げられていた。
「風に逆らうと、痛い目を見るぞ。」
軽口を叩きながら、シンは足元を見た。
風が生み出す気流の跡――その中心に、不自然な光が渦巻いている。
「……あれが原因か。」
丘の頂上に、小さな魔法陣が浮かんでいた。
青白い光を放ち、周囲の風を吸い上げている。
シンは歩を進めながら、懐からレオ老人にもらった笛を取り出した。
「音と風は似ている……なら、共鳴できるはずだ。」
笛を唇に当て、ゆっくりと吹く。
ピィィィ……。
柔らかな音色が丘を包み、
風のうねりが少しずつ和らいでいく。
「今だ。」
風を一つに束ね、指先で突き出した。
――ドンッ!
空気が爆ぜ、魔法陣が割れた。
青い光が散り、風が静かに消えていく。
「ふぅ……初日から中間管理職の仕事並みに疲れるな。」
シンは腰を下ろし、笛を膝に置いた。
風が優しく吹き抜け、彼の髪を揺らす。
「暴れる風も、導いてやれば穏やかになる。
人も……似たようなもんだな。」
遠くで鳥が鳴いた。
空は透き通るように青い。
依頼達成の証として、
シンは魔法陣の破片を拾い上げた。
そこに刻まれた模様は、どこか人の文字に似ていた。
「……やっぱり、誰かが作ったんだな。風を、利用しようとした奴が。」
彼の表情が僅かに引き締まる。
“自然な風”ではなく、“作られた風”――
それは、この世界に渦巻く不穏な気配の始まりだった。
シンは立ち上がり、笛を胸にかけた。
「まぁ、調査報告って言っても、書類は出さなくていいだけマシか。」
笑いながら歩き出す。
風が彼の背中を押し、丘を下る道を照らした。
「さて……次はどんな風が吹くんだ?」
風の丘に静寂が戻った。
その中心に、割れた魔法陣の残光が
まるで“再び吹く嵐”を予告するように、かすかに光っていた。
お読みいただきありがとうございます。
第6話「風の丘」は、物語の転換点です。
ここから“風”は単なる自然現象ではなく、
この世界そのものを動かす存在として描かれていきます。
次回、第7話「風の残響」。
戦いの余波が、街とギルドに波紋を広げます。
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