第5話 出会いの街
第5話です。
シン=アルバートがついに“社会”に足を踏み入れます。
ギルド登録は、彼にとってこの世界での“再就職”のようなもの。
風に導かれながら、彼は再び“働くとは何か”を問い始めます。
森を抜けて三日。
土の道が石畳に変わり、遠くに高い城壁が見えた。
門の前には、商人や旅人の列。街の名は――「ルシエル」。
「ようやく人の匂いがするところまで来たな。」
背負い袋を直しながら、シン=アルバートは列の最後尾についた。
風が彼の髪を揺らす。周囲の視線が少しだけ集まる。
「おい見ろ、あの旅人。妙に落ち着いてるな。」
「冒険者か? 装備が地味すぎるだろ。」
そんな囁きに、シンは小さく笑った。
「……どこの世界でも、見た目で判断するのは変わらんな。」
順番が来ると、門番が声をかけた。
「身分証の提示を。」
「……あー、それがないんですよ。初めてこの国に来まして。」
「は? 身分証がない? じゃあ冒険者登録でもしてから来な。」
「冒険者……登録?」
門番は呆れ顔で指を差した。
「街の北門近くにギルドがある。登録すりゃ通行証が発行される。」
「なるほど……派遣登録みたいなもんか。」
「は?」
「いや、こっちの話です。」
街に入るには登録が必要――要は、この世界の“社会的所属”みたいなものだ。
会社員時代、名刺と社員証があってこその“存在”。
どの世界も似たような構造らしい。
「風のように生きたいが、風にも所属証が要るか。」
自嘲気味に呟きながら、シンはギルドへ向かった。
⸻
ギルドは想像よりも賑やかだった。
木造の大広間。壁には依頼書がずらりと貼られ、
冒険者たちが酒を片手に談笑している。
「おう、初顔じゃねぇか。」
カウンターの奥から、筋骨隆々の男が声をかけてきた。
白髪混じりの髭に、陽気な笑み。
「登録か?」
「ええ、そうです。風に導かれて来ました。」
「……詩人かよ。まぁいい、名前は?」
「シン=アルバート。」
男は帳面に名前を記し、羊皮紙を差し出した。
「はい、これが登録用紙。得意分野と希望ランクを記入な。」
シンは羽ペンを手に取り、少し考えた。
――本当の力を出せば、すぐ最上位になれる。
だが、目立つのは避けたい。
「……ええと、“風魔法少々”。希望ランクは……Bで。」
「B? おいおい、初登録でBなんざ普通ありえねぇぞ。」
「見た目よりは働きますよ。」
「……まぁ、面白ぇ奴だ。仮登録にしといてやる。」
男――受付長のハロルドは、豪快に笑いながら印を押した。
「これでお前も正式な“冒険者”だ。ようこそ、働かない者の楽園へ!」
「……あー、どっかで聞いたことある響きですね。」
シンは苦笑しながらカードを受け取った。
手の中でカードが光り、風の気配が一瞬流れた。
「こりゃ……風属性か。珍しいな。」
「風通しの良い冒険者になりたいんですよ。」
ハロルドは一瞬ポカンとした後、大笑いした。
「気に入った! お前、気取ってねぇのがいいな!」
⸻
登録を終えたシンは、壁に貼られた依頼書を眺めた。
「薬草採取」「村への物資運搬」「討伐:森ネズミ10匹」。
どれも単純な仕事ばかり。
「どれも“雑務”だな……会社の下請け業務みたいだ。」
ふと、一枚の古びた紙が目に留まった。
【急募:北の丘にて異常気流発生。原因調査および鎮静希望】
――風の異常。
「……これは、俺に呼ばれてる気がするな。」
依頼書を剥がし、受付に持っていく。
「これ、受けます。」
ハロルドが目を丸くした。
「おい、いきなりそんなのか? 誰も行きたがらねぇ危険案件だぞ。」
「風は止められませんから。」
「お前、ほんとに何者だ?」
「ただの“元サラリーマン”ですよ。」
そう言って、シンは笑った。
その笑みの奥に、かつて会議室で見せた“読みの鋭さ”が光った。
外に出ると、風が街路を抜け、彼の頬を撫でた。
ギルドの喧騒が背後に遠ざかる。
「さぁ……次は、風の正体を見に行こう。」
風が笛を鳴らした。
それは、次の運命を告げる音のようだった。
お読みいただきありがとうございます。
第5話では、初めて人の社会と向き合うシンの姿を描きました。
次回は第6話「風の丘」――
異常気流の正体、そして初めての“戦い”が始まります。
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