第4話 旅立ち
第4話です。
村での静かな日々に別れを告げ、再び旅立つシン=アルバート。
風のように去り、またどこかで誰かを動かす――
そんな“風の哲学”を少し感じてもらえたら嬉しいです。
朝靄が晴れ、森の木々が光に包まれていた。
小さな村での滞在も、今日が最後だ。
「もう行くのかい?」
エマ婆さんの声が背中からかかる。
「はい。そろそろ“次の風”を探しに行こうと思って。」
「まったく、風のような男だよ。」
婆さんは笑いながら、小さな布袋を差し出した。
中には干し肉と薬草、そして布に包まれた丸い石。
「これは?」
「村の守り石じゃ。風を呼ぶ加護があるそうな。持っていきなされ。」
「……ありがとうございます。」
シン=アルバートは深く頭を下げた。
彼の手の中で、石が微かに震え、風がそっと吹き抜けた。
「行く前に、皆に顔を見せてやっておくれ。」
村の広場では、子どもたちが遊び、老人たちが手を振っていた。
レオ老人が笑いながら近づいてくる。
「行くのか、風の男。」
「ええ。いつまでも居座るのも、風らしくないので。」
「そうじゃな。風は留まらぬからこそ、また戻ってくる。」
「戻ってきた時に、みんなが元気でいてくれたら嬉しいです。」
「お前の風が吹いた村じゃ。もう腐ることはないさ。」
レオはそう言いながら、腰の袋から木製の笛を取り出した。
「これはわしの若い頃の旅笛じゃ。風と共に吹くと良い音がする。」
「……もらっていいんですか?」
「ああ。風の音を忘れんようにな。」
笛を受け取り、シンは村を見渡した。
麦畑の間を通り抜ける風が、金色の穂を揺らす。
それはまるで“ありがとう”と囁いているようだった。
彼は深呼吸をして、空を見上げる。
澄んだ青の中に、薄い雲がゆっくりと流れていた。
「さて……次はどんな風が吹いているのやら。」
背を向け、森の道へと歩き出す。
背後から、子どもたちの声が追いかけてくる。
「シン兄ちゃーん! また来てねー!」
「風に乗って帰ってこーい!」
その言葉に、シンは軽く手を上げた。
「約束する!」
風が吹いた。
それは優しくも力強く、彼の背を押す。
歩きながら、笛を唇に当てた。
音はまだ拙い。けれど、確かに“風の音”がした。
――ピィィ……。
森の木々がその音に応えるようにざわめき、
鳥たちが一斉に飛び立った。
「ふふ……これでいい。」
彼は笑いながら歩き続けた。
風と共に、次の出会いへ。
その道の先に、まだ知らぬ街と、ひとつの運命が待っていた。
お読みいただきありがとうございます。
第4話「旅立ち」は、最初の“別れ”の物語でした。
次回は第5話「出会いの街」。
シンが初めて“ギルド”という世界の仕組みに触れます。
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