第25話 風の赦し
ここまで読んでくださった皆さま、ありがとうございます。
第25話「風の赦し」は、長かった“王都編”の結末であり、
物語の第1部を締めくくる大切な章です。
“二つの風”がぶつかり合った夜のあと、
王都には静けさと朝の光が訪れます。
それは、誰かの勝利ではなく――“赦し”という名の風。
シン=アルバートがこの世界に転生してから、
ずっと心の奥にあった問い――
「人はなぜ、見えないものを恐れるのか。」
その答えが、ここでひとつの形を結びます。
戦いの果てに、彼が見せるのは力ではなく、優しさ。
止まった風をもう一度動かすのは、
剣でも魔法でもなく、“赦す心”なのだと。
――そして、彼の旅はまだ続きます。
けれど、今はひとまずの区切りとして。
どうか最後まで、この風の物語を感じてください。
朝の光が王都グラディエルを包んでいた。
長く止まっていた旗が揺れ、
市場の軒先で、風鈴がやっとその声を取り戻す。
「……これが、本当の風の音ですね。」
エリシアが目を細めた。
「優しいけれど、確かに生きている。」
「息を吹き返したって感じだな。」
シン=アルバートは笛を腰に下げ、
城の高台から王都を見下ろしていた。
王都を覆っていた“沈黙の封印”は消え、
街の空気はようやく自由を思い出した。
ミレイアがそっと近づく。
「陛下が……お呼びです。」
シンは頷き、玉座の間へ向かった。
⸻
そこには、王が一人で立っていた。
玉座に座らず、ただ風の通る窓辺に佇んでいる。
その表情は、戦いの夜よりもずっと穏やかだった。
「導き手……いや、シン・アルバート。」
王は低く言った。
「この国を救ったのは貴殿の風だ。
だが同時に、私が風を恐れていたことも事実だ。」
シンは静かに答える。
「誰だって怖いですよ。
見えないものを“支配”できると思った瞬間、
それが反発してくる。」
王は苦笑した。
「私は風を“沈める”ことで、国を守れると思っていた。
だが……それは人々の心まで止めていたのだな。」
「風は、心の代弁者です。」
ミレイアがそっと言葉を添える。
「あなたが感じた恐れもまた、風の声なんです。」
王は小さく頷いた。
「ならば、私は風に“赦し”を乞おう。」
彼は片膝をつき、
シンの前に跪いた。
「王が、ひとりの導き手に頭を下げるのか?」
レオンが思わず声を上げる。
だがシンは静かに笑った。
「いや、これは“人間”が風に頭を下げてるだけだ。」
王はゆっくりと目を閉じ、
その胸に手を当てた。
「我が罪は、風を縛り、民を沈黙させたこと。
だが、貴殿の風がそれを解いた。
ゆえに私は――この国を“風に委ねる”。」
窓から吹き込む風が、王のマントを揺らした。
その光景に、玉座の間の兵たちは膝をつき、
誰もが初めて“風の声”を聞いた。
「……これが、赦しの風。」
エリシアの目に涙が浮かぶ。
「誰も責めず、ただ包み込む風。」
シンは空を見上げた。
「人も風も、止まることはある。
でも、また吹けばいい。それが“赦す”ってことだろ。」
王は静かに微笑んだ。
「導き手よ――この国の風を、託す。」
「託されたからには、預かっときます。」
シンは軽く頷き、笛をひと吹きした。
柔らかな旋律が玉座の間に広がり、
窓から差し込む風が金色に光った。
人々の頬を撫で、
街の通りを駆け、
遠くの山々まで風が走っていく。
それは“自由の風”でもあり、
“赦しの風”でもあった。
⸻
宮殿を出ると、ミレイアが隣に立った。
「これで、王都の風は救われましたね。」
「まだ半分だ。」
シンが空を見上げる。
「世界は広い。止まってる風は、まだ山ほどある。」
エリシアが微笑む。
「それでも――あなたなら吹かせられます。」
「じゃあ、次の風を探しに行くか。」
レオンが記録帳を閉じて笑った。
「“王都解放”完了、と。」
風が彼らの背を押した。
旅の行方を示すように、
草原の先で一筋の風道が輝いていた。
お読みいただき、ありがとうございました。
これにて、第25話「風の赦し」をもって――
物語の第1部『王都と導き手編』、ひとまずの完結となります。
転生から始まった旅は、いつしか“風そのもの”を問いかける物語となりました。
シン=アルバートは、
戦うでもなく、支配するでもなく、
ただ“赦すことで風を吹かせる”男へと変わっていきます。
王都に再び風が吹き、人々が空を見上げる。
その瞬間こそ、彼の導きが形になった証です。
――けれど、風はまだ止まってはいません。
遠い東の地で、“風を売る国”があるという噂が流れています。
もし、あなたがこの物語の続きを望むなら――
どうかその風を、“ブックマーク”や“感想”という形で吹かせてください。
あなたの風が、次の物語を呼ぶ。
その風が強ければ、
第2部『東方の嵐編』は、きっと動き出します。
第1部 完――そして、あなたの風が次の章を導く...




