第24話 二つの風
「二つの風」――自由と秩序、二人の導き手の直接対決。
宮殿の天井が裂け、二つの風がぶつかり合った。
一方は柔らかく、命を包む風。
もう一方は鋭く、すべてを律する風。
「――“二つの導き手”が相まみえる時、世界の風は形を変える。」
古の言葉が、玉座の壁に刻まれていた。
「シン・アルバート。」
黒衣の青年――もう一人の導き手が笛を構える。
「お前の風は、あまりに無秩序だ。
人を惑わせ、国を揺るがす。」
シンは口の端を上げる。
「秩序、ね。
風はそもそも“揺らぐ”もんだろ。
まっすぐ吹いたら、それはもう風じゃない。」
青年は目を細める。
「……ならば証明しろ。
“流れるだけの風”が、どれだけ人を導けるのか。」
「望むところだ。」
笛が鳴った。
二つの音が交錯する。
瞬間、王座の間が巨大な風圧に包まれた。
シンの風は自由奔放に渦を描き、
青年の風は刃のように整然と空間を裂く。
風と風がぶつかるたび、光の稲妻が走り、
床の大理石がひび割れていく。
「これが……“風の決闘”……!」
レオンが叫ぶ。
ミレイアが目を見開いた。
「いいえ、これは――“風の選別”です。
どちらの理念を風が受け入れるかを試している!」
シンは額の汗を拭い、笑った。
「なるほど、面接試験か。苦手なんだよな、こういうの。」
青年の目が光る。
「ふざけるなッ!」
一陣の風刃が放たれ、空間を切り裂く。
だが、シンの風はそれを包み込んで消した。
「やっぱりな。」
「……何を笑う!」
「お前の風、“怖がってる”よ。」
青年の表情が揺れた。
「風ってのは感じるもんだ。命の呼吸、鼓動、匂い、声。
でもお前は“命を遠ざけた風”を使ってる。
そいつはもう、ただの“冷気”だ。」
「黙れ!」
青年の風が一気に膨れ上がる。
だがその力の中心で、風が震えた。
――“助けて”。
かすかな声が聞こえた。
それは、青年自身の内に閉じ込められた風の声。
シンは笛を口にあて、静かに吹いた。
“ピィィ――”
柔らかい旋律が空を満たし、
冷たい風を包み込む。
青年の風が崩れ、
王座の間に静寂が戻る。
「……なんだ、この音は……。」
「風の子守歌さ。」
シンは笛を下ろす。
「怒りも秩序も、全部抱えて吹くのが“導き手”だろ。」
青年は膝をつき、震える手で胸を押さえた。
「なぜ……お前は、恐れない。」
「恐れてるさ。」
シンは笑う。
「でもな、風は止まることを怖がってる。
だったら、俺が吹かせてやるだけだ。」
青年の笛が砕け、
彼の胸から光が放たれた。
風が王座の間を満たし、
その中で王のマントが静かに揺れた。
王は目を閉じ、呟く。
「……これが、“自由の風”か。」
沈黙の宮殿に、久しぶりの風が流れた。
旗が揺れ、窓が軋み、外の世界へと風が解き放たれていく。
シンは笛をくるくると回し、空を見上げた。
「これで少しは、息がしやすくなるだろ。」
エリシアが微笑んだ。
「ええ……あなたの風が、この国に息を吹き返しました。」
ミレイアが祈るように呟く。
「二つの風が交わり、一つの流れとなる……
これが、導き手の試練だったのですね。」
「試練?」
シンは苦笑する。
「俺にとってはただの会議だったけどな。」
王は沈黙したまま、
だがその表情には、確かな安堵が浮かんでいた。
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第24話「二つの風」は、シリーズ初の“導き手同士の風戦”。
次回、第25話「風の赦し」――
戦いの後、王が告げる“真実の告白”。
封じられた歴史と、初代導き手の遺言が明らかになります。
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