第23話 沈黙の玉座
第23話です。
「沈黙の玉座」では、ついに王が登場し、“もう一人の導き手”が姿を現します。
風を自由にするか、秩序のもとに縛るか――
王都グラディエルの中心にそびえる「静寂の宮殿」。
その扉の向こうに、風の流れはなかった。
カーテンも旗も揺れず、炎さえも動かない。
「……本当に、風が死んでる。」
シン=アルバートが低く呟く。
「まるで世界が息を止めたみたいだ。」
ミレイアがうなずく。
「この宮殿は、“風封じの陣”の中心です。
風を完全に遮断することで、王は“静寂の支配”を保っている。」
「権力ってやつは、空気まで独占したくなるんだな。」
シンが苦笑する。
エリシアは小さく祈りを捧げた。
「風の神よ……ここに、どうかひと筋でも流れを……」
だが、答えはなかった。
風は沈黙している。
⸻
玉座の間。
長い赤絨毯の先に、黒衣の王が座していた。
その目は深い闇を宿し、まるで風のない湖のようだった。
「導き手――シン・アルバート。」
王の声は低く、響くように冷たい。
「貴様が“風の羽根”を手にしたというのは事実か?」
「そうだけど。」
シンは肩をすくめた。
「拾っただけだ。誰かが落としてたんでな。」
「その軽口で王の前に立つか。」
周囲の兵がざわめく。
だが王は手を上げ、静かに制した。
「私は貴様を裁くために呼んだのではない。
――確かめたかったのだ。
本当に、風が“貴様を選んだ”のかを。」
シンは眉をひそめた。
「風が俺を選んだ? それを確認してどうする。」
「ならば問おう。」
王が立ち上がる。
その瞬間、空気が変わった。
風のない空間なのに、重圧が押し寄せてくる。
「なぜ風は、王を捨て、貴様に従ったのだ?」
「簡単だよ。」
シンは淡々と答える。
「王が風を“恐れた”からだ。」
玉座の間が静まり返る。
兵たちの手が震え、王の眉が動く。
「……恐れただと?」
「そうだ。
風は力でも道具でもねぇ。
でも、あんたは違う。
風を“制御”しようとした。それが間違いだ。」
王の目が怒りに染まる。
「制御なくして秩序は成らぬ!」
「秩序を作るのは人じゃない。流れだ。」
シンの声が鋭く響いた。
「風は流れてこそ意味がある。
止めた瞬間、それは“空気”でも“神”でもなく、“死”になる。」
沈黙。
やがて、王は苦笑を漏らした。
「……なるほど。確かに貴様は導き手だ。」
「認めるのか?」
「だが同時に――“脅威”だ。」
王が片手を上げる。
天井の紋章が光り、空気がねじれた。
“風の封印陣”が再び発動する。
ミレイアが叫んだ。
「陛下、それは禁術です! この城が崩壊します!」
「黙れ。風の力を我が身に取り込む。それが王の義務。」
風のないはずの宮殿に、異様な震動が走る。
光が弾け、天井の魔法陣が歪んだ。
そこに立っていたのは――王の隣に控える、黒衣の青年。
「……お前は?」
シンが目を細める。
青年は無表情に答えた。
「私は“風の代行者”。
王のために風を制御する者。」
「代行者?」
エリシアが息を呑む。
「まさか、あなたも“導き手”……?」
青年はわずかに目を伏せ、笛を取り出した。
その形は、シンのものと同じ。
「……風は二人の導き手を選んだ。
一人は自由のために、もう一人は秩序のために。」
王が満足げに笑う。
「さぁ、“風の分かれ道”を見せてみろ。
どちらの風が、この国を導くのか。」
笛が鳴った。
二つの風がぶつかり合う。
自由と秩序――二つの理念が、王都の空を裂いた。
お読みいただきありがとうございます。
第23話「沈黙の玉座」は、王都編の前半クライマックス。
“もう一人の導き手”の存在により、物語は二重の構造へと展開。
次回、第24話「二つの風」――
自由と秩序、二人の導き手が初めて真正面から激突。
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