第20話 風の試練
第20話です。
「風の試練」では、シン=アルバートが初めて“風の内側”へと入り、
自らの過去と対峙するシーンが描かれます。
彼の「転生」が偶然ではなく、“風そのものの意志”だったという新事実も判明。
ここで彼は真の導き手としての一歩を踏み出します。
平原の奥、古代の石柱が林立する場所に着いたとき、
風の流れが急に変わった。
「ここだ……“試練の地”。」
ミレイアが静かに呟く。
その瞳には覚悟と、わずかな恐れが宿っていた。
「風の断片が、強く反応してます!」
レオンの装置が淡く光る。
針がぐるぐると回転し、風の音が耳を震わせた。
「空気が重い……。」
エリシアが唇を噛む。
「まるで、風が“試している”みたい。」
シン=アルバートは一歩前へ出た。
「試すってことは、答えを期待してるってことだ。」
彼が足を踏み入れた瞬間、
石柱に刻まれた紋様が光り出した。
轟音と共に、地面が震える。
「シン!」
エリシアの叫びが響くが、風が遮った。
次の瞬間、シンの身体は光に包まれ、
周囲の景色がゆがみ始めた。
⸻
気づけば、そこは“風の内側”――
音もなく、色だけが流れる世界だった。
「……ここは。」
声を出しても、風が吸い取るように消える。
その前に、ひとりの人影が現れた。
白い外套、笛を携えた青年。
――自分と同じ顔。
「お前は……誰だ。」
青年は穏やかに笑った。
「お前さ。過去の“俺”。」
「過去?」
「そう。かつて“風の律法”を破り、
導き手として神殿を離れた者。」
シンは眉をひそめる。
「つまり、俺が何かをやらかしたってことか。」
「そうだ。だが、風はお前を見捨てなかった。
この世界に転生させたのは、風そのものの意志だ。」
「……転生、か。」
胸の奥がざわつく。
会社が倒産し、眠るようにこの世界へ来たあの日。
すべて“偶然”だと思っていたが――
「つまり、俺は“風に選ばれた”?」
「いや、“風に責任を押しつけられた”んだよ。」
青年が笛を掲げる。
風が唸り、空間が裂けた。
『導き手よ。お前の風は、誰のために吹く?』
声が世界全体に響く。
風が形を変え、刃となってシンへ襲いかかる。
「試練か……なら、受けて立つ!」
シンは笛を構えた。
音が鳴り、風が巻く。
だが、それはすぐに押し返された。
「“守る”ための風じゃ勝てねぇのか……。」
青年が笑う。
「お前の風は、まだ他人のために吹いてる。
風は、“己を認めた者”のもとでしか生きられない。」
シンは歯を食いしばる。
会社時代も、仲間のため、組織のために風を吹かせてきた。
だが今――
「……じゃあ、今度は“自分のために”吹かせてみる。」
静かに目を閉じた。
風の音が消え、心臓の鼓動が風と重なる。
「俺は、俺の風で生きる。」
笛が鳴った。
風が爆ぜ、光が走る。
吹き荒れる風はすべて逆流し、
青年の姿が光の粒となって散っていく。
『その答え――風が認めた。』
世界が崩れ、光が収束していく。
⸻
目を開けると、
エリシアとレオン、そしてミレイアが心配そうに覗き込んでいた。
「シン! 大丈夫ですか!」
「おい、風の中で倒れてたぞ!」
シンは息を整え、笑った。
「試練、終わったみたいだ。」
ミレイアの目に涙が浮かぶ。
「あなたの風が、神殿を動かしました……。」
見ると、石柱の一つが崩れ、内部から“風の羽”が現れていた。
それは、白く輝く光の結晶。
「これは……?」
「“風の羽根”。導き手が認められた証です。」
シンはそれを手に取り、静かに頷いた。
「じゃあ、次の風を探しに行くか。」
エリシアが微笑む。
「はい。あなたの風が、また誰かを救います。」
「いや、救うんじゃない。」
シンは少し照れたように笑った。
「一緒に吹くだけさ。」
風が三人を包み、
その先に、まだ見ぬ地平が広がっていた。
お読みいただきありがとうございます。
第20話「風の試練」は、導き手の覚醒回でした。
“他人のために吹く風”から、“自分のために吹く風”へ。
この成長が、今後の全章に深く繋がっていきます。
次回、第21話「風の羽根」――
試練の証を得たシン=アルバートたち。
しかし、“風の羽根”を狙う王国の使者が現れます。
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