第18話 風の遺産
第18話です。
「風の遺産」――ガルズの残した“風の断片”を通じて、
ついに“風の起源”と“導き手の予言”が明らかになります。
哲学と神話が交わるこの章は、物語の第二幕を開く重要な節目です。
夜が明けた。
戦いの名残が残る南の街レシアに、穏やかな朝風が吹いていた。
「……静かだな。」
シン=アルバートは、教会の瓦礫に腰を下ろし、笛を膝に置いた。
「風が、落ち着いてる。」
エリシアは祈るように手を胸に当てた。
「怒りも悲しみも過ぎ去って、今は“眠っている”風ですね。」
「戦いが終わって、やっと呼吸が戻ったんだろ。」
シンが微笑んだ。
その時――レオンが駆け寄ってくる。
「シンさん、これを!」
彼の手に握られていたのは、黒く光る“欠片”だった。
それは、ガルズが消滅したあと、風に乗って残されたもの。
「……これが、“風の断片”か。」
シンはそれを手に取り、目を凝らす。
欠片の内部には微かな光が渦を巻いていた。
まるで、風そのものの記憶が封じられているように。
「これ、ただの魔力じゃありません。」
レオンの声が震える。
「風の記録……“風の中の映像”です!」
「風が……記録を持つ?」
エリシアが息を呑む。
「まさか、風が“過去を覚えている”なんて……!」
「それを確かめるには、吹かせてみるしかないな。」
シンは笛を構えた。
風の断片を掌に乗せ、ゆっくりと音を吹く。
“ピィィィ――”
音が共鳴し、欠片が光り始める。
風が三人の周囲に渦を巻き、
やがて空気の中に“映像”が浮かび上がった。
⸻
そこに映し出されたのは、
青空と、無数の塔が立ち並ぶ古代都市。
風車が回り、空を渡る橋を人々が歩いている。
「これが……この世界の昔?」
レオンが声を失う。
エリシアは息を詰めた。
「風が、人と共に生きていた時代……!」
その光景の中央に、
一人の青年が立っていた。
白い外套、腰に笛。
どこか――シンに似ていた。
「……俺?」
青年は空を見上げ、
微笑みながら風に手を伸ばした。
『風は神ではない。
風は、人が信じる限りで生きる。
だからこそ――人の傲慢が、風を“神格化”した。』
「……つまり、人が風を神にしたのか。」
シンの声に、エリシアが小さく頷く。
「風は最初から、誰かのものではなかった。
それを“神”と呼んでしまったのが、人間なのです。」
映像の中の青年が、こちらを振り返るように微笑んだ。
『もし、再び風が封じられた時――
“導き手”が現れ、風を正すだろう。
その者こそ、風と人をつなぐ者。』
「導き手……!」
エリシアの瞳が光を宿す。
「それが、今のあなたです、シン!」
「……いや、まだだ。」
シンは首を振った。
「導くってのは、命令じゃない。
“共に歩く”ことだ。」
映像がゆっくりと消えていく。
風の断片が砕け、柔らかな風が頬を撫でた。
「風が笑ってますね。」
「うん。多分、“見つけてくれてありがとう”って言ってる。」
シンは立ち上がり、空を見上げた。
北風が流れ、遠くの空に白い鳥が舞う。
「風の記憶が、まだどこかに残ってる。
これが“風の遺産”――なら、全部見つけてやろう。」
エリシアが微笑む。
「きっと、風が案内してくれます。」
「そうだな。風任せに行こうか。」
三人は再び歩き出す。
その背に、新しい風が吹いた。
それは過去の記憶を未来へ運ぶ、“希望の風”だった
お読みいただきありがとうございます。
第18話「風の遺産」は、世界設定の中核に迫る回でした。
“風とは何か”――その問いが、
今後の旅の方向性を決めていきます。
次回、第19話「風を継ぐ者」――
新たな地へ旅立つ三人。
そこに現れるのは、“風の弟子”を名乗る謎の少女。
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