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第17話 風を喰らう者

第17話です。

ついに登場した“風を喰らう者”ガルズ。

風そのものを糧とする存在との戦いを通じて、

シン=アルバートが“風を導く者”としての覚悟を固める重要回です。

南風編、前半クライマックス!

夜のレシアの空に、黒雲が集まり始めていた。

昼間の穏やかな風は消え、

代わりに、重く淀んだ“気配”が漂っている。


「風が……怯えてます。」

エリシアの声が震えた。

「まるで、何かに“狙われている”ように。」


「風が怯えるなんて初めて聞いたな。」

シン=アルバートは笛を握りしめ、目を細めた。

「風が“捕食されてる”……そんな感じがする。」


レオンが驚愕の表情を浮かべた。

「風を……食う? そんなことができる存在なんて――」


「できるんだよ。」

低い声が、風の中から響いた。


三人が振り向くと、

闇の中から人影が一歩、また一歩と現れた。

黒い外套に身を包み、

その背後の空気が“削り取られて”いる。


「風が……流れていない……?」

エリシアが息を呑む。


「お前が“黒衣の残滓”か?」

シンが声を放つ。


「いや、あれはただの器。」

男の声は低く、風が通らない。

「私は“風を喰らう者”――ガルズ。」


レオンが顔を強ばらせた。

「古文書に記録があります……! “風を取り込み、生命力に変える者”――

 風の寄生体!」


ガルズは笑った。

「寄生体ではない。進化だ。

 人は風に頼りすぎた。だから私は風そのものを取り込み、支配する。」


「風は支配するもんじゃない。」

シンの声が鋭く響く。

「お前のやってることは、“息を止める”のと同じだ。」


「息を止めれば、苦しみも止む。」

ガルズの瞳に、狂気にも似た静けさが宿っていた。


風が渦を巻いた。

否――風が“吸い込まれて”いく。

まるで空そのものが飲み込まれるように、街の灯りが消えた。


「風が……消えていく!」

レオンが叫ぶ。

「このままでは街全体の空気が――!」


「下がってろ。」

シンが笛を構えた。

「風を喰う奴には、風で“吐かせる”しかない。」


笛の音が鳴る。

しかし、音は途中で“切れた”。

まるで空気ごと噛み砕かれるように。


「無駄だ。」ガルズが笑う。

「音も風も、私の糧だ。」


「じゃあ、胃もたれするくらい吹き込んでやるよ。」


シンは一歩踏み出し、両手を広げた。

彼の周囲に“微細な風”が渦を巻く。

風の粒子、音の欠片――

その全てをひとつに束ね、静かに呼吸した。


「風は消えない。ただ、流れを変えるだけだ。」


“フッ”――


一瞬、風が戻った。

わずかな気流がガルズの外套を揺らす。


「……馬鹿な。」


「風の流れが読めないだろ? お前は風を食いすぎて“感じる力”を失ってる。」

「貴様……!」


ガルズが怒りの叫びを上げ、

無数の黒い風刃を放った。


シンは笛を吹く――

音は出ない、しかし空気が震えた。


風が逆巻き、黒い刃が“吸い返される”。

まるで風そのものが“拒絶反応”を起こしているようだった。


「風はお前のものじゃない。

 人の息、鳥の羽ばたき、子どもの笑い――全部、風の一部だ。」


シンが笛を吹き切った瞬間、

巨大な気流がガルズを包み込んだ。


「――風の返礼リヴァース・ブレス!」


轟音。

黒い外套が裂け、ガルズの体が空中で粉々に砕け散る。

吸い込まれていた風が一気に解放され、

夜空に光の渦となって広がった。


静寂。


そして――風が戻った。


エリシアが泣きながら呟いた。

「風が……笑っています……。」


シンは息を整えながら笛を下ろした。

「“喰う”より、“分け合う”方がうまいって、

 昔上司に教わったんだよな。」


レオンが微笑む。

「それ、いい教訓ですね。」


「だろ?」

シンが空を見上げた。

夜明けの風が吹き抜け、

街の屋根を撫で、雲の間から陽が差し込んだ。


「――風は、止まらない。」

お読みいただきありがとうございます。

第17話「風を喰らう者」は、アクションと哲学の交差点のような回でした。

風を“奪う”ことと“共有する”こと――

それが人の在り方にも重なるテーマになっています。


次回、第18話「風の遺産」――

ガルズが残した“風の断片”に、過去の真実が眠る。

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